代替インフラの胎動
「決済インフラ」シリーズ パート3 ― ホールセールペイメント編のハイライト(最終回)
本レポートシリーズは、セレントのペイメントタクソノミーに基づき、A) 決済手段とチャネル、B) 法人決済:主に銀行から(金融法人を含む)法人顧客に提供される決済サービス(ホールセール決済サービス、大口決済サービス)、C) 個人決済:主として銀行から(小売店を含む)個人顧客に提供される決済サービス(リテール決済サービス、小口決済サービス)の動向に言及する。加えて、各種決済サービスの背景、競争条件として、D) 金融市場インフラ(FMI)を捉える。
これまでに、日本の決済インフラの要諦である、全国銀行データ通信システム(全銀システム)をPart 1で、日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット)をPart 2で考察した。
本Part 3では、B) 法人決済、すなわち大口決済、ホールセールペイメントに注目し、決済インフラの高度化、新たな技術の隆盛とサービス事業者の出現、そこでの新たな価値とリスクの連鎖を把握し、決済サービスの高度化やディスラプティブな決済サービスの創出において考慮すべきグローバルトレンドと、日本市場の現状、今後の取り組みについて言及する。
また、続くPart 4では、A) 決済手段とチャネルの多様化の進展、C) 個人顧客に提供される決済サービス(リテール決済サービス、小口決済サービス)の動向、そこでの組織とテクノロジー利用の動向に言及する。
本稿は、6回シリーズでそのエッセンスを紹介する、最終回である。
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日本の決済インフラは今、新興テクノロジーの採用と新たなビジネスモデルの隆盛の両面から極めて重要な段階にある。
SBIグループの動向は、代替インフラのモデルケースに止まらない。決済インフラ、特に大口決済、ホールセールペイメントにおける高度化、新たな技術の隆盛とサービス事業者の在り方、そこでの新たな価値とリスクの連鎖、ディスラプティブな決済サービスの創出において、考慮すべき多くの方向性や示唆に富む。
SBI Ripple Asiaによる代替インフラの構築
ブロックチェーン技術を活用した次世代決済基盤を提供する新会社の設立
2016年5月19日、SBIホールディングス株式会社(以下「SBIホールディングス」)は、ブロックチェーン技術を活用した次世代決済基盤を開発・提供しているRipple Labs Inc.(本社:米国、以下「リップル」)と共同で、日本を含むアジア地域を事業対象としたSBI Ripple Asia株式会社を設立した。
リップルは、『Internet of Value』をコンセプトに掲げ、通貨や金融システムのイノベーションを推進しており、ビットコインに次ぐ時価総額を誇る暗号通貨XRPの発行・運営を行う暗号通貨の第一人者である。暗号通貨取引における基盤技術であるブロックチェーン技術を活用した、革新的な次世代決済基盤「リップルコネクト」を開発し、大手金融機関に向けて提供を開始している。
SBIホールディングスは、リップルに対して出資を行うとともに、日本及びアジア地域での事業展開を行う合弁会社としてSBI Ripple Asia株式会社を設立し、日本及びアジア地域においてブロックチェーン技術を活用した決済基盤の提供を開始している。
日本においては、国際送金事業を手掛けるSBIレミット株式会社(以下「SBIレミット」)を皮切りに、各種金融機関・送金事業者へのソリューション提供を行う。また、「リップルコネクト」及び今後開発されるリップルの各種ソリューションの金融機関への拡販のほか、日本及びアジアでの独自ソリューションも展開する。
国内外為替の一元化検討に関するコンソーシアム
2016年10月25日、SBIホールディングスとSBI Ripple Asiaが事務局を務める「国内外為替の一元化検討に関するコンソーシアム」(以下「コンソーシアム」)が、地域金融機関やインターネット専業銀行等を含む邦銀42行と共に発足した。
コンソーシアムの狙いは、ブロックチェーンなどの新技術を活用することで、内国為替と外国為替を一元化した24時間リアルタイムでの送金インフラ構築を目指し、国内外為替にあたって必要となる業務に関して技術・運用の両面での検討を主眼とする。
2017年3月、コンソーシアムは、ブロックチェーン関連技術(分散台帳技術)を活用し、外国為替に加えて内国為替も一元的に扱う決済プラットフォーム「RCクラウド」の実証実験の実施を発表した。
「RCクラウド」のPoC環境
日韓送金実験:韓国の大手2行と邦銀37行による共同実験
2017年12月、SBIホールディングスとSBI Ripple Asiaが事務局を務める「コンソーシアム」は、参加の邦銀と韓国大手行との間で、分散台帳技術(DLT)を活用した国際送金の共同実験の開始を発表した。
12月から韓国の大手2金融機関(ウリィ銀行、新韓銀行)と、コンソーシアム参加金融機関61行のうち、三井住友銀行、三井住友信託銀行、三菱UFJ信託銀行、りそな銀行他大手地方銀行を含む37行との間での送金実験を行う。
SBIレミットによる新国際送金インフラの提供
日本-タイ王国間で初の分散台帳技術(DLT)を活用した送金サービス
2017年6月、SBIホールディングス傘下で国際送金サービスを手がけるSBIレミットは、SBI Ripple Asiaとの技術提携により、タイ大手の民間銀行であるThe Siam Commercial Bank Public Company Limited(以下「サイアム商業銀行」)との間で、日本-タイ王国間では初の分散台帳技術(DLT:Distributed Ledger Technology)を活用した送金サービスの開始を発表した。
SBIレミットは2010年のサービス開始以来、200を超える国と地域に対して最短10分での着金を可能とする国際送金サービスを提供している。中国、ベトナム、フィリピン等のアジア各国、ブラジル、ペルーなどの南米各国では銀行口座宛ての送金も可能であり、サイアム商業銀行はタイで初となる銀行口座宛て送金の受取可能銀行となった。
日本-ベトナム間で初の分散台帳技術(DLT)を活用した送金サービス
2019年11月、SBI Ripple Asia、SBIレミットは、ベトナムの商業銀行TienPhong Commercial Joint Stock Bank(本社:ベトナム・ハノイ市、以下「TPBank」)との間で、日本-ベトナム間では初となる分散台帳技術(DLT)を活用した実際の通貨での送金ビジネスを開始した。
2019年12月、SBIレミットは、海外向け送金取扱い累計額(円換算額)が8,000億円を突破したと発表した。同社は、主に日本に在留する外国人の方々に対して送金を中心とした金融サービスを提供することをミッションとして、2010年12月末に開業した。同社サービスの主な利用者である在留外国人の人口は同社開業時の約208万人に対し、2018末時点で約65万人(31%)増の約273万人と大幅に増加、これに伴い同社の送金取扱い金額も順調に拡大している。