日本の大手金融機関のIT人材育成
Abstract
(このレポートは2007年6月11日に日本語で発表されましたが、英訳版を"The Critical Career Path:IT Employee Development in the Japanese Financial Services Industry"というタイトルで2007年9月27日に発行しました。)
IT知識の蓄積と人材育成の仕組みに加えて、魅力的なキャリアパスと公正な評価軸が必要不可欠です。
金融機関を取り巻く環境は、この10年で大きく様変わりしてきました。その中で、ビジネスに及ぼすITの影響は益々強くなってきており、ビジネス戦略を検討する上でITはなくてはならない要素になっています。ITの重要性の認識について差はあるものの、日本の金融業界は近年、IT知識の蓄積とIT人材の育成に目を向け始めています。
IT導入とビジネスモデルの構築が相互に影響しあう中、業務とIT双方を理解できる人材の育成が関心を 集めています。これには企業としての体系的な仕組みと、人材にとって魅力的な制度の導入が必要です。 金融機関がビジネス戦略上でITを有効に活用できるようになるまでに必要な要素は以下の通りです。
・IT知識の体系的な蓄積
・ビジネスとITの双方を理解できる人材の育成
・ビジネス要求に柔軟に対応するシステムの構築
・魅力的なキャリアパスと正当な評価軸の整備
日本の金融業界は、各業種ごとにITの重要性の認識について差があります。最も高い認識を持つのは証券業界で、銀行、保険と続きます。証券業界はすでにグローバル化の波に巻き込まれており、海外勢力と互角に競争できるよう新技術の導入に積極的です。銀行業界もやはり大手を中心に競争環境の激化に伴ってビジネスとIT の相乗効果を模索し始めていますが、証券業界に比べて遅れ気味です。保険業界は長年国内マーケットに特化してきたせいか、海外勢力が流入してきている現在でも技術革新の重要性をあまり認識していません。
「これらの要素の重要性を未だ実感していない金融機関も、業種を越えた競争や国内市場への海外勢力の流入で競争環境が激化すると、その必要性を痛感することになるでしょう。」とセレントのアナリストで今回のレポートを執筆した万仲 裕美子は述べています。「日本の金融機関はIT知識の蓄積と、IT人材の育成の重要性に気づき、対策を取り始めていますが、IT人材向けのキャリアパス構築と、その評価軸整備が未だに不十分と思われます。人材のモチベーションを向上させることができなければ、基盤の仕組みを構築しても片手落ちなのです。」
当レポートでは2007年問題にも見られる人材育成問題に着目し、日本の大手金融機関がIT 知識の蓄積、ビジネスとIT の双方を理解する人材の育成にどのような対策を取っているかを紹介しています。更に、IT人材の定着を図るためのキャリアパスの整備状況についても紹介しています。
当レポートは7図と1表含む全29ページで構成されています。