自己勘定取引を禁止するボルガー・ルール:その実際に迫る
Abstract
オリバーワイマン既刊レポート
金融危機後に提案された規制のうち、最も議論を巻き起こしたものの1つにボルガー・ルールがあります。同規制はドッド・フランク法に付随し、銀行が顧客の利益につながらない投機的な投資に走らないようその機能を限定することを目的にしています。ただ、このコンセプトを有効な規制として具体化することの難しさが浮き彫りになっています。
既に施行されているドッド・フランク法の第619条(「ボルガー・ルール」と名付けられている)は、次の3つの点で銀行に大きな影響を与えています。
1. ヘッジファンド、プライベートエクイティ・ファンドや類似商品に多額の投資を行うことを禁じている。
2. ほとんどの資産クラスについて「自己勘定取引」を行う別組織を設けることを禁じている。
3. マーケットメーク、引受けおよびそれに関連したヘッジ取引は、禁止されている自己勘定取引を伴わない場合にのみ認められる。
最初の2つは比較的わかりやすく、また、さらに重要なことは、監視しやすいことです。問題なのは3番目の点です。基本的な考え方は、マーケットメークやヘッジサービスなど資本市場ディーラーとして「適切な」業務活動の続行は認める一方で、銀行というセイフティ・ネットを持つ金融機関による投機的投資という「不適切な」活動は一掃するというものです。しかし、いずれの活動を行う場合も市場リスクの選好あるいは管理を選択する必要があり、市場の動きによって利益または損失が発生する可能性があります。これらを区別するのが難しいことは、自明の理だといえるでしょう。
米規制当局は、1年にわたる検討を経てようやくボルガー・ルールを組み入れた規制案を提案しました。しかし、外部からの監視によって自己勘定取引の禁止を徹底することは難しいと判断し、金融機関自らに監視を義務づける複雑なコンプライアンス規制を設け、当局がそれを監視する方針に転換しました(FRB、証券取引員会、通貨監督局および連邦預金保険公社が一丸となって規制案に協力。商品先物取引委員会はボルガー・ルールの独自導入を検討している模様)。
規制案の問題点として以下の点が挙げられます。
• 銀行によるマーケットメークを禁じていない。
• 銀行による流動性および全社ベースの金利リスクの管理を禁じていない。
• 銀行がポートフォリオ単位で大規模なリスクヘッジを行うことを禁じていない。
• 法令遵守状況を示すための取引ごとの報告や分析を義務づけていない。
• あらゆる規模や業務内容の金融機関に対して、共通の法令遵守体制の整備を義務づけていない。
しかし、同規制は銀行に様々な影響を及ぼしています。提案されたボルガー・ルールに準拠するためには、銀行の傘下にある世界中のほぼ全ての金融機関が最大限の努力を求められるとみられ、それに伴い業務活動や最終的には市場構造にも大きな変化が生じる可能性があります。
本レポートの主たる著者は オリバーワイマンの北米Public Policy and Finance & Risk Practicesのパートナーである、John Lesterです。