「行動規範」の導入が促進する欧州の取引後システム市場の競争
Abstract
「行動規範」の導入が欧州の取引後システム市場にもたらした影響は、取引後の決済手数料の下落を除けば限定的であったとセレントはみています。
欧州全域の金融市場の統合を目標に掲げる欧州委員会が「行動規範」を導入したことを受け、欧州の取引後市場における公正な競争を促進に貢献するよう、取引システムのプロバイダーは自主的な献身、努力を求められています。同委員会が導入した「行動規範」は、いわば法的拘束力のないソフトローといえるでしょう。「行動規範」の下では、取引後システムのプロバイダーは①価格の透明性を高めるため個々のサービスを切り離す、②取引後サービスによる収入を他の収入源と区別する、さらに最も重要な点として③同じ取引所向けのシステムを運営している(または運営を予定している)競合他社と相互運用可能なリンクを備える―ことを求められています。
セレントの最新レポート「『行動規範』の導入が欧州の取引後システム市場の競争を促進」では欧州の取引後システム市場の現状を示し、主な市場参加者が提供するサービスを分析しました。「行動規範」は欧州の取引後インフラの再構築を目指して策定されたものですが、その最終的な効果には疑問もあります。
「相互運用を実現したいという要望のうち、多くは満たされることはないでしょう。その理由は技術的な問題ではなく、ビジネスモデルが実行不可能であること、既存プレイヤーの抵抗などが挙げられます。1つの取引所からの取引データフィードだけで採算性を確保しているCCP(セントラル・カウンターパーティ)はごく一部に限られるとセレントではみています」とセレントのシニアアナリストでレポートを執筆したアクセル・ピエロンは述べています。
しかし、セントラル・クリアリング・カウンターパーティの側では、「行動規範」の導入が引き金となって生じた価格競争が今後も続く見通しとなっており、クリアリングフィーの下落に歯止めがかからない状況です。顧客が取引後システムのプロバイダーを他のプロバイダーに変更する際の「切替コスト」がゼロになればクリアリングフィーの下落が抑えられるでしょう。
欧州の取引後システム市場では、当面は目立った変化はみられないでしょう。しかし、長期的には再編が進む可能性が高いと思われます。
既存の市場プレイヤーについての簡単な競争力の分析、また、「行動規範」の守備範囲、潜在的効果、導入がもたらす問題などを詳しく紹介しました。最後に、欧州の取引後システム市場の今後について3つのシナリオに基づいて予測しています。
本レポートは15図と7表を含む35ページで構成されています。