リスク管理の現状、テクノロジーの課題と投資動向:戦略上の緊急課題
Abstract
2012年に、世界の金融機関がコアリスク管理およびリスク関連法令遵守のために投じる資金は350億ドルを超えると予想されます。北米、欧州、アジア太平洋地域の銀行、保険、証券および投資運用セクターにおけるこの分野への投資はIT投資全体からみても比重が高く、2015年には506億ドルに拡大する見通しです。
セレントは信用危機前の2007年12月に、金融機関が新たな現実に対処するために備えるべき能力について「リスクマネジメントとコンプライアンス:新たな現実への対応」を発行しました。その中で提示した原則は5年後の今にも当てはまる内容ですが、課題はさらに大きくなったように思われます。
セレントの最新レポート「リスク管理の現状、テクノロジーの課題と投資動向」は、リスク関連のシステム投資をめぐる戦略上の緊急課題について取り上げています。金融業界をめぐる環境や規制動向の変化に伴い、資本市場取引を手がける会社や金融機関が次世代テクノロジーの構築、リスク管理プロジェクトの実行、業務の潜在リスクの日常的な監視・管理などの方法を策定・推進するにあたっては、中期的スタンスから長期的スタンスへと大きくギアチェンジしなくてはならなくなる可能性があります。
「投資条件は厳しくなっていますが、リスクおよび法令遵守関連のプロジェクトへの投資は継続される見通しです。金融機関や業界レベルで『破たんした金融システムの立て直し』とリスク管理の強化を迫られているためです」と、セレントのリサーチディレクターでレポートを執筆したキュビラス・ディンは述べています。
金融機関によるIT投資の大部分はリスク管理(市場リスク、信用リスク、AML/流動性リスク、カウンターパーティリスクなど)に振り向けられており、その割合は全体の65%を超えています。2012年には、財務以外のリスク(AML、金融犯罪、担保管理、ERM、オペレーショナルリスク、コンプライアンス、規制当局への報告など)に関する投資が全体の24%を占めるとみられます。
規模、販売、テクノロジーおよびインフラが戦略上さらに重要な意味をもつようになるため、金融機関とこれをサポートするソリューションプロバイダーは、これらの分野への投資は不可欠となるでしょう。さらに、新たな市場において成功を収めるには、機敏性で優位に立ち、コスト効率を生かすことが必要です。
財務リスクの管理という観点からは、流動性と財務基盤の強さ、そしてこれらの資源を効率的に管理する能力が重要な差別化要因となるでしょう。既に、金融機関によって資金調達コストには大きな差があり(特に多額の公的債務を抱える国の金融機関はコストが増大)、投資家にとっては金融機関の優劣を判断する材料となっています。優れたリスク管理・資産運用システムの導入により、強固な財務基盤の構築と潤沢な手元資金の確保に成功した銀行は、市場シェアを拡大するでしょう。
レポートでは金融業界の変化、資本・流動性に関する規制、デリバティブ取引の改革、新たな金融システムに向けた進化などを踏まえた上で、リスク管理をめぐる主要トレンドとリスク関連のIT投資の見通しについて分析しています。金融システムを再生するためには、透明性が高く、電子化されたリアルタイムシステムを金融機関全体または業界全体に導入し、それに基づく新しい運用方法を策定することが前提となるでしょう。