マイクロサービス
雲の彼方のソフトウェアエンジニアリング革命
本稿は、ソフトウェアエンジニアリングの革新的な手法として注目される「マイクロサービス」のコンセプトと、それを用いたシステムとビジネスの「モジュール化」によるアーキテクチャ革命の本質を探究する。日本の銀行業界における、レガシー&エコシステムマイグレーションとイノベーションとエマージングテクノロジーの可能性をレポートする「デジタルトランスフォーメーション」シリーズの第2弾である。
「マイクロサービスアーキテクチャ」(以下「マイクロサービス」と記載)とは、ソフトウェアを独立して配置可能なサービスの組み合わせとして設計、開発する手法である。この開発方法論は、ウェブサービスが普及しフィンテック連携が叫ばれる今日の環境と極めて親和性が高い。高度に統合されモノリシック(一枚岩)な日本の銀行勘定系は、メガバンクの自営システムであれ、地域銀行の共同システムであれ、そのコンセプト、開発・運用・保守の実際において、この革新的なアーキテクチャ「マイクロサービス」の対極にある。
マイクロサービスの源流にある、UNIXやLinuxのビジネスモデル、フリーソフトウェアからオープンソースへの潮流は、現代の銀行業界が直面するデジタル・コミュニティとの連携や、そこでの新たな顧客関係の構築に様々な示唆をもたらす。マイクロサービスの開発方法論とオープンソースの考え方による、システムとビジネスのモジュール化は、日本の銀行が直面する新たな市場の創生と顧客関係の構築において、切り札となろう。
マイクロサービスとオープンソースがもたらす効用は、ソフトウェアエンジニアリングに止まらない。高度にネットワーク化されたコミュニティ活動が進展するデジタル社会においては、これまでの成功体験が全く通用しないパラダイムシフトが進行している。マイクロサービスとオープンソースは、①情報価値の再定義、②情報を事業化するための仕組みの構築、③情報を機軸としたコミュニティとそこでのアライアンス戦略の3点で、金融サービスのアーキテクチャ革新に寄与するだろう。
邦銀は、初めてコンピュータを手にした1960年代以降、50年以上にわたって閉鎖的で硬直的なシステム開発思想を厳守してきた。今正に、その岩盤が徐々に決壊する兆候を感じる。旧来の銀行が、頑なにそのアナログ思考に固執すれば、デジタルな顧客は、デジタルな関係を提供する新金融サービスにシフトし、旧来の銀行業は終焉するだろう。そのシフトは、「はじめは徐々に、その後一気に」進展するだろう。
マイクロサービスは、日本の銀行にとって、金融サービスのアーキテクチャ革命の契機となる。
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