医療貯蓄口座(HSA)の獲得:市場の成長はハイペースだがその開拓はスローペース
Abstract
景気が不透明な状況下で預金の拡大を目指す銀行にとって、医療貯蓄口座(HSA)は新たな成長分野といえるでしょう。医療市場は低コストで縮小の可能性が低い「未開拓分野」であり、HSAの獲得は銀行に預金拡大の機会をもたらすものです。
銀行が段階的な預金拡大を実現する上で、HSAは確実な資金源といえるでしょう。セレントの予測では、2009年に新たに開設されるHSAは90万件を超え、2012年には340万件超に増加する見通しです。言うまでもなくこの中から契約更新される口座も発生するとみられ、その割合は年間で全体の約2.5%に相当すると予想されます。HSAの獲得に成功した銀行が業界トップに押し上げられるとは考えにくいものの(2007年現在、HASの資産残高はリテール預金残高のわずか0.075%を占めるにすぎず、 今後も銀行の資産基盤に占める割合は比較的低水準で推移する見通し)、HSAを銀行全体のビジネス戦略の一環と捉えるのは賢明といえるでしょう。 HSAをリテール預金と比較した場合、銀行にとっては以下のようなメリットがあります。
- HSAをリテール預金と比較した場合、銀行にとっては以下のようなメリットがあります。
- リテール預金の口座解約率が20%であるのに対し、HSAの解約率は12%にとどまっている。
- HSAの70〜80%は銀行にとって未開拓市場であり、新規顧客の獲得が見込まれる。
HSAの販売手法も、銀行にとってはより魅力的といえます。401kやその他の確定拠出年金と同様、 HSAの大部分は事業主を通じて販売されています。そのため、銀行はリテール向け販売チャネルを使わずに、直接事業主をHSAプログラムに取り込むことができます。これにより、一度に数十、数百または数千人規模の従業員の登録が可能になります。このように、リテール預金に比べてHSAは低コストで顧客を獲得できる商品といえます。HSAの獲得に成功するためには医療プラン、保険ブローカー、年金管理者、銀行内の販売部門などのプレーヤーを含む各チャネルとの関係構築とその維持に努めることが不可欠です。
出典:セレント
「関連チャネルのサポートにおいて優れた実績を上げている銀行およびHSA管理者の例として、First Horizon Msaverが挙げられます。2005年の市況を受け、Msaverはこの4年間に保険会社との段階的な提携を進めることで他に例のない基盤を確立し、それを成長の原動力としてきました。我々がHSA獲得に関するケーススタディとしてMsaverを取り上げた主な理由の1つはこうしたアプローチにあります。」とセレント銀行プラクティスのシニアアナリストでレポート執筆者のレッド・ギレン は述べています。
Msaverは医療プラン(従ってHSA)の販売においては保険ブローカーが「地上部隊」の役割を果たすとみて、様々な革新的な方法によって提携先ブローカーをサポートしています。この戦略は成果を上げているとみられます。2004年時点のHSA口座数を100とした場合、2008年の市場全体の口座数は280だったのに対し、Msaverの口座数1,000弱に増加しています。HSAの資産残高についても、(同じく2004年を100とした場合)2008年には市場全体が313だったのに対し、Msaverの残高はやはり1,000弱まで拡大しました。
本レポートではリテール預金、401kおよびHSAの成長を比較・分析するとともに、銀行がどのように販売チャネルを開拓しているかを明らかにしています。また、レポートの大部分を割いてFirst Horizon MsaverのHSAプログラムに関するケーススタディを紹介しています。
本レポートは23図と2表を含む44ページで構成されています。