リスク識別プロセス:銀行には何が欠けていたのか?
REPORT PREVIOUSLY PUBLISHED BY OLIVER WYMAN
Abstract
リスクの識別とは企業が抱えるリスクと脆弱性を評価し、組織内でそれらのリスクに対する意識を啓発するプロセスを示します。金融機関の効果的な経営の基本はリスクを理解し、管理することにあり、リスク識別プロセスはその出発点になるものです。しかし、従来のリスク識別プロセスの多くは、金融機関のリスク管理ニーズに十分に対応しきれていません。特に、金融機関固有のストレステストや最大の脆弱性の特定プロセスはそうした傾向が強いといえるでしょう。これらのプロセスの範囲と深さはともに十分とはいえず、重要な潜在リスクを浮き彫りにすることが難しくなっています。その結果、リスク管理に重大な欠陥が生じることになりかねません。米国の監督当局はそうした状況を把握した上で、金融機関にリスク識別プロセスの拡充に加え、リスクの識別とストレステストや幅広いリスク管理業務との連携を図るよう促しています。
従来のリスク識別プロセスには、組織横断的な視点が十分に組み入れられていませんでした。すなわち、最重要リスクと小さなリスクを効果的に識別したり、潜在的なリスク要因とそれらがいかに相互作用してリスクを増幅させるか、あるいは小さなリスクが特定の環境下でいかに深刻化しかねないかを十分考慮したりすることができませんでした。金融機関がストレステストに基づくリスクおよび資本管理アプローチを採用し、自社固有の脆弱性に合ったストレスシナリオの策定により時間をかけるようになれば、リスク識別プロセスを通じて自社の脆弱性をさらに正確に把握し、それらの軽減あるいは自己資本の積み増しといった措置を講じることも可能になるでしょう。
本レポートは、銀行がシナリオ策定、リスク測定、幅広いリスク管理ニーズを組織内に周知させ、次の嵐を巧く乗り切るためには、リスク識別プロセスの改善が不可欠であると指摘しています。