モバイルB2X:世界のモバイル決済に新たな波
Abstract
(このレポートは2010年1月12日に”Mobile B2X: The Next Mobile Payment Wave in International Markets”というタイトルで英文で発表されましたが、日本語版を2010年8月4日に発行しました。)
モバイル決済の導入が最も進んでいるのは新興諸国です。そこに今「モバイルB2X」と呼ばれる、まったく新しい決済分野が登場しようとしています。モバイルB2XとはすなわちBusiness-to-X、 企業(Business)と他企業(Business)や従業員、消費者(Person)との決済を、モバイルチャネルを通じて行うモデルです。「X」とのは、どのような組織も個人も、企業(や政府)のモバイルチャネルを通じた決済の相手となりうることを表しています。
世界の国々の多くでは、モバイル決済の中でも特にP2P(person-to-person、個人間)の分野が成功を収めていますが、先進国だけでなくアフリカ、アジア、ラテンアメリカの数十カ国においても移動体通信業者(MNO)がサービスを提供するようになりました。サービスはもはや生活必需品となり、競争による価格が下落するのは時間の問題でしょう。
モバイル決済分野のプレイヤーには、市場やイノベーション分野の新開拓が必要になるでしょう。セレントの最新レポート「モバイルB2X:世界のモバイル決済に新たな波」では、企業がどのような形でモバイル決済を利用することになるか、以下のパターンに分けて考察しました。
- 小売業者から卸売業者への代金の支払い
- 企業(および政府)から個人への給与、手数料、年金の支払い
- 企業(および政府)から個人への社会保障の給付
国民の多くが銀行口座を持たない国々でも、モバイルB2Xが先進国における口座振込と同等の役割を果たすことが可能です。2012年には世界の口座非所有者のうち17億人が携帯電話を所有する、と仮定すると、ケニアの最低賃金で計算して16.5兆米ドル(約1540兆円)もの給与支払いがそのターゲットとなります。
出典:セレント
「銀行の顧客である企業や政府がモバイル決済市場に参加するようになれば、銀行もようやくモバイル決済の一角に食い込めます。その点にモバイルB2Xの重要性があります。モバイルB2Xは銀行の新たな収益源であるにとどまらず、モバイル決済エコシステムがMNOによって完全に支配されている現状を打破する可能性があります」とセレント・バンキンググループのシニアアナリストで本レポートの執筆者であるレッド・ギレンは述べています。
とはいえ、モバイルB2X市場を成長させるのは容易ではなく、テクノロジーさえあれば成功が約束されるわけでもありません。入出金において果たす役割の増大に対応可能なように、携帯電話キャリアのエージェントネットワークを強化しなければならないでしょう。政府の規制による取引上限額があまりに低くならないよう、目を配る必要もあります。それぞれの業者が別個の機能を基盤としている現行のビジネスモデルから、モバイル・ネットワーク、銀行、支払者、被支払者の間で相互運用が可能なモデルに切り替えることも重要です。また、これはテクノロジーベンダーにとっては、支払者と被支払者の両方にワンストップ型の統合システムを提案するビジネス機会を生むことにもなります。
本レポートは15図と5表を含む46ページで構成されています。