電子インボイスをめぐるビジネスチャンスと無関心に潜むリスク
And the Perils for Ignoring It
Abstract
(このレポートは2011年5月24日に"The Opportunity for E-Invoicing:And the Perils for Ignoring It"というタイトルで英文で発表されましたが、和訳版を2012年8月24日に発行しました。)
銀行業界は、以前から電子インボイス(e-invoicing)の将来性に着目していました。電子インボイスの発行量はここ3年間に倍増するなど着実に拡大しているとはいえ、多くの国では普及率はいまだ10%に届いていないのが現状です。本レポートは、電子決済の普及促進をめざす銀行業界が、電子インボイスの導入を通じていかに21世紀型顧客サービスへの飛躍を遂げられるかを考察します。
セレントの最新レポート「電子インボイスをめぐるビジネスチャンス」は、銀行業界でこれまで電子インボイスの普及が進まなかった理由を分析し、銀行の取り組み不足や成功事例の少なさの背景に、短期間で投資回収可能なビジネスケースによって銀行が動かされてきたという事実を指摘しています。電子インボイスは様々なビジネスチャンスを提供するとはいえ、短期間でこうしたビジネス要件を満たすことは難しいと思われます。また、問題の一端は、電子インボイスの概念が広く誤解されており、しばしばサプライチェーン・ファイナンス、ファイナンシャル・サプライチェーン、e-billingなどと混同されることにあります。レポートではさらに、電子インボイス(とそうでないもの)の定義を示し、なぜ注目すべきなのか、また、なぜほかにも多くのメリットをもたらすと考えるのか説明しています。
米国防省の推計では、電子インボイスの導入により年間2億5,000万ドル(約203億円)の経費削減が可能になったとしています。 また、欧州委員会は6年間の経費節減額は欧州のGDPの1%に相当すると試算しています。電子インボイスの導入は企業や地域社会のコスト削減につながる一方、一見して必ずしも銀行のメリットはないように見えるため、多くの銀行にとってはこの点がネックとなっているようです。
しかし、電子インボイスの導入に伴うコスト削減は、最終的にはおそらく他のどのセクターよりも銀行に大きなメリットをもたらすと思われます。それよりもまず、電子インボイスは、将来のデジタル顧客サービス構築のための基盤として重要です。銀行は、取引に付随する書類の中で最も重要な請求書を手始めに、価値連鎖の根幹部分の効率性を飛躍的に高められるでしょう。これを機に、トレードファイナンスの市場開拓や顧客理解の深化などから、新たなビジネスアイディアも生まれるでしょう。それ以外にも、電子決済のさらなる普及(とそれに伴うストレート・スルー・プロセッシングの拡大)を促すプロジェクトや、その流れを受けて電子口座管理(eBAM)を全顧客に適用するためのプロジェクトなども可能になるでしょう。
「顧客関係を進化させるためには、電子インボイスが不可欠です。ただ、ブラジルをはじめとする多くの国の事例からも明らかなように、規制で義務付けられない限り、実際にビジネスとして取り組むケースは多くはならないでしょう。しかし、電子インボイスがもたらす価値は初期投資の回収だけにとどまりません。銀行は、自分たちがそのエコシステムの一役を担うことがないまま電子インボイスが進化してしまわないよう、今こそ一致協力すべき時にきています」とセレント銀行グループのシニアアナリストでレポートを執筆したガレス・ロッジは述べています。
注)ドルから日本円への換算レートは、2012年4月30日の仲値(三菱東京UFJ銀行公表による)を参照。