世界の外国為替市場におけるテクノロジー動向
Abstract
(このレポートは2011年5月2日に"Technology Systems in the Global FX Market"というタイトルで英文で発表されましたが、和訳版を2011年9月16日に発行しました。)
外国為替取引の売買高は、様々な資産クラスの中で最大です。1日当たりの平均売買高は4兆ドル(約328兆円)で、株式のほぼ2倍に相当します。こうした売買高の大きさゆえ、業務やインフラ面で独自の課題が生じています。
セントの最新レポート「世界の外国為替市場におけるテクノロジー動向」は、外国為替市場の電子化とIT投資の拡大状況について分析しています。セレントの推計によると、2010年の外国為替関連のIT投資額は約12億ドル(約984億円)に達したとみられます。今後3年間はアルゴリズム取引、システム応答時間と容量の向上、複数の資産クラスを対象とする取引戦略の拡大、取引後およびストレート・スル―・プロセッシング(STP)の強化などが主な牽引役となって、外国為替取引の電子化に向けた投資が拡大するでしょう。
外国為替取引の拡大は、IT投資の増加に直結します。市場シェアの争奪戦が展開されるなか、大手銀行は投資額をさらに上積みしています。中小の銀行は革新的なアプローチで対抗せざるを得なくなり、特定のデリバティブ取引や通貨ペア取引といったニッチ商品の提供や、ヘッジファンドや資産運用会社など特定の顧客セグメントへの特化へと軸足を移しつつあります。
今回の調査では、主に以下の点が明らかになりました。
シングル・ディーラー・プラットフォーム(SDP)の普及が広がっている背景には、主に銀行がIT投資を進めていることがあります。SDPを使うことで注文執行がよりスムーズになり、待ち時間も短縮されるため、取引執行のスピードと信頼性の向上につながります。また、SDP導入により調査・分析機能に加え、優れた取引後の処理能力や銀行が提供するSTPソリューションを活用することができます。
取引1件当たりの売買代金が減少し、取引件数が増えるなか、取引後の総合的なSTPソリューションを求める声が高まっています。コスト削減を迫られる中小プレーヤーの間では、ホステッドサービス型モデルや共有サービスへのニーズが拡大しています。複数のプライムブローカーや複数資産のバックオフィス機能を統合する構想は複雑ながらも現実味を帯びてきており、革新的なソリューションの開発が期待されています。
取引前の段階では、流動性集約システムや複雑なイベント処理、取引コストの分析、使いやすいユーザーインターフェースが重要なポイントとなります。売買高の増加に伴い、取引の意思決定プロセスにおいて、分析ツールの高度化がさらに進み、その重要性も増しています。売買高の増加と1件あたりの取引額が減少する中、市場データの取扱いや情報やデータの有効活用が一段と不可欠になっています。
「D2C市場には多様なニーズを持つ幅広いユーザーが参加しており、それがソリューションにも反映されています。市場のニーズが高度化するにつれ、最新のソリューションは『フロント・ツー・バックの統合ソリューション』と『特定分野に特化したニッチソリューション』の2つに分極化しています」とセレントのアナリストでレポートの共同執筆者であるスリークリシュナ・サンカーは述べています。
「フロントおよびミドルオフィスでは、リスク管理への関心が高まり、リスク管理ソリューションへの投資が拡大しています。金融機関は、ポートフォリオの評価方法、過去のVaRデータ、詳細な損益計算書をリアルタイムで提供できるソリューションの開発を目指しています」 とアナリストで共同執筆者のムラリダール・ダザールは述べています。
本レポートは、世界の外国為替市場の動向とその将来の発展に向けてテクノロジーが果たす役割について論じています。また、細分化されたテクノロジー市場を分析し、今後注目を集める分野を示しています。