CO2 排出権取引市場
Abstract
(このレポートは2007年10月18日に"The Carbon Emission Trading Market"というタイトルで英文で発表されましたが、和訳版を2008年5月21日に発行しました。)
CO2排出権取引は不安定感が拭えないものの、今後も市場の拡大が続くとみられます。
アル・ゴア前米副大統領がノーベル平和賞を受賞し、もはや地球温暖化問題は誰もが知る問題となり、人間生活に及ぼす影響については議論の余地がありません。CO2排 出削減のための政策実施が1年遅れるごとに、地球温暖化が加速度的に進行してしまうことも周知の事実です。京都議定書からEU域内排出量取引制度(EU ETS)に至るまで、排出削減策は「排出枠の設定と取引」というシステムに基づいて策定されてきました。つまり、排出量に一定の枠を設けて参加者間で許容 排出量と削減量を取引するという仕組みです。
CO2排出権取引の市場規模は2006年には220億ユーロ(約3,6兆円)に達し、さらに拡 大する見通しです。地域や国によって規制が異なるため、市場動向を予測することは容易ではありませんが、セレントでは2012年に売買高が400億ユーロ (約6,5兆円)を超えるとみています。
EU ETSが航空業界にも適用され、これまで排出権取引を活発に行ってこなかった州や地方(カリフォルニア州など)が市場に進出する可能性が高まり、市場の拡大を後押しするでしょう。
「CO2排出権取引市場は当局が想定した『負の資産』をもとに形成されているため、規制の枠組みやその展開次第で大きく左右されます。国際的調和の難しさや規制環境の不透明性はあるものの、この市場の将来性は高いでしょう」とセレントのアナリストでレポートを執筆したアクセル・ピエロン は述べています。
CO2排出権取引市場には幅広い商品があり、その価格は当該国の経済状況、エネルギー商品の価格、天候などと密接に連動しています。従って、規制上の不透明性はあっても、この市場をターゲットとするトレーダーはこうした商品を投資戦略に組み入れていくべきでしょう。
「コストが原因でCO2排 出権取引を本格化できない金融機関が多く、また、リテール銀行においても排出量を相殺するための商品(「カーボンオフセット」等)の提供が進んでいないこ とは極めて予想外です。地球温暖化への関心が高まる中、リテール顧客層は潜在需要が見込める市場といえます。市場の流動性を向上させるには、市場参加者層 を拡大することが不可欠といえるでしょう」とピエロンは付け加えています。
CO2排出権取引では店頭取引が引き続き大部分を占めていますが、取引所にとっては流動性の低さが悩みの種となっています。多くの取引所は店頭取引を執行した市場 参加者に報告機能を提供しているため、売買高が押し上げられています。実際、取引全体における店頭取引の占める割合は72%で、相対取引の大部分を占めて います。ピエロンは「CO2排 出権取引市場が欧州気候取引所(ECX)のような取引所の創設による恩恵を受けていることは明らかです。問題なのは、これらの取引所の採算性です。また、 積極的に市場に参入して独自のプラットフォームを開発したブローカーは今のところ見られません。現在の市場の存在自体への先行き不安が、経済的な不安定感 を増幅させていると我々はみています。」
本レポートの主な内容は、CO2排出権取引市場の分析、様々な排出削減スキームの定義と解説、商品の説明などです。また、CO2排出権関連商品の取引動向について論じています。さらに主な取引所(欧州気候取引所(ECX)、シカゴ気候取引所(CCX)、NordPool、Powernext)に関する簡単な分析も行っています。
本レポートは21図と4表を含む38ページから構成されています。
注)ユーロから日本円への換算レートは、2007年9月30日の仲値(三菱東京UFJ銀行公表による)を参照。