モバイルコンタクトレス決済先進国:日本から学ぶべき教訓
Abstract
(このレポートは2010年6月14日に"Lessons from the Mobile Payments Leader: What the World Can Learn from the Japanese Market"というタイトルで英文で発表しましたが、日本語版を2010年8月23日に発行しました。)
日本のモバイルコンタクトレス決済は、その全貌を解明することも、海外にそのまま輸出することも簡単ではありません。セレントは、日本のモデルを参考に、米国やその他の国が近距離無線通信(NFC)対応のモバイルコンタクトレス決済ソリューションをよりスピーディかつ効果的に導入する方法を探りました。
近い将来に近距離無線通信(NFC)対応のモバイルコンタクトレスペイメント(モバイル非接触型決済)が普及する、その実証例として日本市場を挙げる専門家の声が多く聞かれます。しかし、日本のケースは、多くが考えるような単純明快な成功例とは言い難いのが実情です。セレントが大手の携帯電話会社、銀行、決済サービス会社、テクノロジーベンダーを対象に行ったインタビュー調査によると、日本では現在、モバイルコンタクトレス決済の登録数は約2,800万で、そのうち約2,000万が実際に決済に利用されているとみられます。コンタクトレス決済カード発行総数のうち、モバイルコンタクトレス決済カード(チップ)の占める割合は24%、また、アクティブに利用されているのは17%となっています。
日本市場で得た教訓を海外市場にあてはめる際には、日本市場の特異性を認識する必要があります。とはいえ、その違いを超えて日本の例から学ぶ点は多く、セレントはこれらを最新レポート「モバイルコンタクトレス決済先進国:日本から学ぶべき教訓」にまとめました。レポートの要旨は以下のとおりです。
- 日本におけるモバイルコンタクトレス決済は、新しいテクノロジーを素早く取り入れるアーリーアダプター層の間でさえも、普及に時間がかかっている。
- 携帯電話に資金決済機能が実際に組み込まれているからといって消費者の利用にすぐ繋がるわけではなく、魅力的なインセンティブが提供されるかが、今後の起爆剤となる。
- 消費者と同様に、小売業者にとっても資金決済機能はさほど重要ではなく、モバイルテクノロジーを販売促進や売上増に生かすことを最も重視している。
- モバイルコンタクトレス決済テクノロジーは新たなビジネスチャンスを生み出し、市場への新規参入がしやすい環境を作り出している。日本の事例から、決済スペースで銀行など従来の金融機関の存在が徐々に薄くなりつつある事が明らかになった。
- 業界間および業界内の連携が成否を分けるカギとなる。モバイルコンタクトレス決済では異業種企業が重要な役割を担うため、ひとつの業界が単独で成功を収めることは難しい。
- モバイルコンタクトレス決済が銀行に利益(その拡大)をもたらすかどうか、まだ結論は出ていない。米国ではデビットカードをコンタクトベースではなくNFCに置き換えようとする動きがあるが、日本では資金決済のひとつとしてデビットカードが一般に根付いていないため、例としてふさわしくない。
出典:セレント
「日本市場は他国と明らかに異なっていますが、日本でモバイルコンタクトレス決済が普及しているという事実は検証に値するでしょう。テクノロジーやインフラに違いはありますが、他の国でも参考となる実証的および戦略的な教訓が数多くみられます」とセレント銀行グループのシニアアナリストでレポートを執筆したレッド・ギレンは述べています。
米国など、いまだモバイルコンタクトレス決済市場のリーダーが存在せず、企業間の提携関係が形成されていない市場においては、本レポートは特に参考となるでしょう。日本で主にモバイルコンタクトレス決済サービスを提供しているのは携帯電話会社、小売業者や第三の決済業者といった金融機関以外のプレーヤーであり、銀行や国際的な決済ブランドは影が薄く、従来の機能を果たすにとどまっています。日本の実例を米国にあてはめると、PayPal、Apple、Verizon、AT&Tなどの非金融機関のみならず、スターバックスやウォルマートといった小売業者も既存の金融機関を脅かす存在になる可能性があるといえるでしょう。
本レポートは19図と6表を含む43ページで構成されています。