2023年 北米のリテールバンキングにおけるITの優先順位と戦略
レガシーシステムを入れ替えてアジリティとスピードを向上
Abstract
マクロ経済環境によって困難な状況が生じているにもかかわらず、北米のリテールバンクのIT支出は2023年に3.5%増加する見通しである。背景にある主な要因は国や金融機関によって異なっているが、顕著なテーマとして、レガシーシステムの入れ替え、コンプライアンスの維持、および金融機関内のアジリティの向上がある。また、オンボーディングなどの主要なワークフローにおける顧客エクスペリエンスの強化に重点を置いていることも大きく関係している。さらに、BaaS (サービスとしての銀行)、オープンバンキング、エンベデッドファイナンスの機会を追求するプロジェクトも今や一般的になっている。
特に注目に値するのは、アジリティに重点が置かれていることである。背景には多くの要因があるが、最も根本的な要因の1つは、フィンテックの成長によって起きたカルチャーの変化である。このところ、迅速性と機敏性を高めるという方針を公言するリテールバンクが増えており、こうした銀行はアプローチを適応させる必要があると認識している。クラウド技術の導入ペースの速さ、AI関連の活動 (生成AIを活用したエクスペリエンスを含む) の急増、オープンエコシステム構築プロジェクトへの投資はすべて、リテールバンクの意識が大きく変化していることの現れである。
リテールバンキング業界の戦略的および商品レベルにおけるテクノロジーの優先事項を明らかにするために、セレントは再びテクノロジーのインサイトと戦略に関する調査を実施した。セレントは世界のリテールバンキング部門のシニアエグゼクティブ228名からインサイトと見解を収集し、今後1年間のIT優先事項の上位項目、および最も大きな変化が予想される商品とプロセスについて詳細な情報を得た。本レポートでは、北米 (米国とカナダ) のリテールバンキングのエグゼクティブ50名からの回答を分析した。
主な調査結果:
- 北米のリテール・バンクは、レガシーシステムの入れ替えまたは最新化の必要性を認識しており、回答した銀行の56%がこれをIT投資のドライバーの上位3項目の1つに挙げている。しかし、米国の銀行では「レガシーシステムの入れ替え」と「コンプライアンス要件と規制要件の遵守」が重視されているのに対し、カナダでは回答者の82%が「顧客エクスペリエンスの向上」を戦略的ドライバーの上位3項目の1つに挙げており、次いで多かったのが「スピードとアジリティの向上」(71%)であった。
- 「持てる者と持たざる者」の格差が拡大している。IT予算の伸びが最も大きかったのは小規模な銀行で、伸び率は昨年の3.3%から2023年には4.9%に上昇しているが、大規模銀行 (資産規模1,000億米ドル以上) でも昨年の1.9%から3.1%に上昇している。さらに、大規模銀行は「事業の変革」に向けた取り組みに最も多くの予算 (56%) を割り当てることができる。
- 北米のリテールバンクの72%が「オープンエコシステムに関与するための明確な戦略を持っている」と回答しており、多くの銀行が商品戦略と販売戦略の転換を図っていることが示された。
- テクノロジーの優先項目上位3つのうちの2つ、上位5つのうちの3つが人工知能 (AI) (42%が優先項目のトップ3に挙げている) 、ロボティック・プロセス・オートメーション (RPA) (34%)、高度なデータアナリティクスと機械学習 (26%) に関連している。
- 生成AIは銀行が試験的に利用している新たなテクノロジーの上位に入っている。北米のリテールバンクの46%が現在生成AIを使用しているか、評価中であると回答し、さらに32%が2023年または24年のロードマップに生成AIを使用したプロジェクトを組み入れている。
- 北米のリテールバンクの68%が「2023年にはワークロードの多くをパブリッククラウドに移行する」と回答しているが、これは世界平均 (70%) をわずかに下回っている。
リテールバンキング業界への教訓は明らかである。北米のリテールバンクにとって、レガシーシステムの排除とイノベーションのための資金確保が大きな戦略的ドライバーとなっており、投資についていけない銀行は、市場に後れを取るリスクがある。