T2S導入後の欧州における取引後処理:競争が促進する新たな決済戦略
Abstract
欧州で計画されていた決済エンジン「Target2Securities」の導入がいよいよ間近に迫ってきました。取引後処理のバリューチェーンに属する市場参加者は、T2S導入後の環境に対応するため、業務およびテクノロジー戦略の見直しと再構築を迫られています。
セレントの最新レポート「T2S導入後の欧州における取引後処理:競争が促進する新たな決済戦略」は、T2Sの導入に備えて様々な市場参加者が検討している主な決済戦略を取り上げ、それによって欧州の取引後処理業界がどのように再形成されるかを予測しています。レポートでは、各戦略を市場参加者のタイプ(カストディアン、iCSD、ブローカーディーラーなど)と市場に基づいて分類しています。
T2S導入により、最も大きな影響を受けるのは証券決済機関(CSD)とカストディアンとみられ、サービスの拡充が重要になるでしょう。特にCSDにとっては死活問題で、資産管理サービス業務にも手を広げてバリューチェーンの上流に進出したとしても、その規模やターゲットとする市場の範囲が十分に大きくなければ、生き残れる保証はないでしょう。地域のカストディアンも同様で、規模の拡大や独自機能の開発を行わない限り、生き残りは難しいとみられます。
一方、地域のカストディアンやiCSDは最大の恩恵を受けられるよう体制を整えています。彼らの多くは既に戦略を策定し、T2S導入に向けてそれらを実行に移しつつあります。これらのプロバイダーは、クロスボーダー取引の決済コストの引き下げに加え、中央銀行の預金口座を通じた決済、流動性プール、資金調達、担保管理などのサービスにも取り組んでいます。
T2S導入後は、いくつか新しいビジネスモデルが出現すると予想されます。例えば、カストディ「軽減」モデル、口座管理モデル、スポンサード決済モデル、清算/決済は自社で行い取引執行はカストディアンに委託するモデル、CSDによる決済合理化モデルなどです。
グローバルカストディアンやブローカーディーラーは、自分たちがT2Sプラットフォームに直接接続することになるのかが明確になるまで、様子見のスタンスをとっています。「ブローバルカストディアンやブローカーディーラーがどのようなアプローチをとるにせよ、T2S導入に伴う移行作業は一気に進むのではなく、緩やかで段階的なプロセスになるとみられます。各市場参加者は、あらゆる代替手段を慎重に検討した上で最終的な決断を下すことになるでしょう。不測の事態に備えた計画を立てることが重要になります」とセレント証券グループのアナリストでレポートを共同執筆したアリン・レイは述べています。
「T2Sの導入に伴い、市場参加者の間にある既存の境界線は今後ますます不明瞭になるとみられます。また、CSD規制、欧州市場インフラ規制(EMIR)、バーゼルⅢなどの導入もこの流れに拍車をかけています。そのためCSDやiCSDは、ブローカー向けに流動性および担保管理サービスを提供することでカストディアンに対する攻勢を強めるとみられます。一方、T2S に直接接続することで、少なくとも決済機能に関してはグローバルカストディアンと地域のカストディアンの違いは小さくなるでしょう。サブカストディ市場はユーロ圏に基盤を置く4~5つのプレーヤーの寡占状態になるとみられ、一部の市場に特化する中小のカストディアンはニッチプレーヤーとして生き残るでしょう」とシニアアナリストでレポートの共同執筆者であるジョセフィン・ドゥ・シャズルネはコメントしています。
今回の調査は、セレントがSWIFTと共同で進めているT2Sの進展状況に関する調査の一環として行われたものです。調査では、欧州の取引後処理サービスを手がける複数の分野のプロバイダーとその顧客を含む17の主な市場参加者への取材から多くの有益な情報を入手することができました。取材対象の内訳は、グローバルカストディアンが4社、地域のカストディアンが4社、サブカストディアンが2社、iCSDが2つ、CSDと地方のCCPがそれぞれ1つ、ブローカーディーラーが3社となっています。
本レポートではまず、T2Sプロジェクトの背景と欧州における取引後処理の現状を明らかにしています。次に、市場参加者のタイプ別(CSD、iCSD、CCP、カストディアン、ブローカーディーラー)に、T2S導入を見据えてそれぞれ決済戦略をどのように見直しているかを分析しました。具体的には、業務戦略、テクノロジー戦略、担保管理分析、全体的なコスト分析などが含まれます。また別の項では、T2Sの施行期限が近づくなかで新たに登場しているビジネスモデルやサービスを紹介しています。さらに、今後5~7年間に欧州の取引後処理がどのように進展していくかを異なる想定やシナリオに基づいて予測しています。