Abstract
ウェルスマネジメントを手掛ける金融機関はアウトソーシングをコスト削減手段として利用するが、世界的な金融危機のように市況が低迷する状況下ではそうした動きが加速する傾向がある。金融危機から10年が経過し、新型コロナウイルスの長期的な影響がもたらす長引く逆風と不確実性がウェルスマネジャーを苦しめている今も、こうしたコスト削減手法は広く実践されている。
ウェルスマネジメント業界では、コロナ危機がテクノロジー導入を加速させる起爆剤になるというのが一致した見方である。ウェルスマネジャーは、一夜にしてリモートワークに対応できる体制の整備を迫られた。伝統的なミドル/バックオフィス部門にとっては、セキュリティー体制、VPN(仮想専用線)接続機能、チーム間の連携、業務プロセスのデジタル化(ペーパーレス化含む)といった様々な課題に対して、経営トップを納得させる体制を築くことが必須となる。社内でミドル/バックオフィス業務を行うウェルスマネジャーは意思決定や安全性の判断を自己裁量で行えるが、これらの業務をアウトソースしている場合は自ら管理できる範囲が限定される。
アウトソーシングの主なメリットとしてはコスト削減のほか、スケールメリットによる業務効率化、新規市場参入または新商品投入の迅速化が挙げられる。一方、自ら管理できず業務の透明性が低下するといった課題も伴う。
ロックダウンやソーシャルディスタンスを求める措置が解除されたあと、ウェルスマネジャーがどのような形で業務を再開するかはなお不透明だが、従来の業務モデルが変わることは間違いない。ウェルスマネジャーは危機に備えて「財布のひもを締める」構えを見せる一方、付加価値の高い業務へのリソース投入も重視している。付加価値を生まないと判断された業務は合理化の対象となり、アウトソーシングを手掛けるベンダーはそうした業務の受託機会を虎視眈々と狙っている。ウェルスマネジャーは「ニューノーマル」の体制構築という難しい作業に取り組むと同時に、アウトソーシングを選択肢とする業務の見直しも進めるべきだろう。
(詳しい情報は、セレント北川俊来TKitagawa@celent.comまでお問合せください)