保険会社向けクラウドソリューション:ベンダーのプランとプライオリティ
Abstract
クラウドコンピューティングほど頻繁に話題に上るテクノロジーは稀といえるでしょう。企業の取締役室で、ウォール街のアナリストの間で、産業関連のメディアで、あるいは保険関連のIT企業で使われるテクノロジーの業界用語のうち、最も多く登場するのは「クラウドサービス」ではないでしょうか。ただ一般には、変革をもたらす可能性はあるものの、まだあまり普及していない最新テクノロジーとして認識されています。
クラウドコンピューティングに対する一般の関心が高いのは当然といえるでしょう。クラウドを利用することで飛躍的に柔軟性が高まり、経済的メリットが見込まれ、業務効率が無限に向上すると考えられているからです。保険会社がこれらを実現しようとすれば、既存のクラウド製品に頼るしかありません。ベンダーが提供するクラウドベースの製品があって初めて、保険会社はそれらを利用することができるのです。
ではどのベンダーがこれらを手掛けているのでしょうか。全てのベンダーはクラウドベースのアプリケーションを開発しているのでしょうか。保険会社にはどのような選択肢があるのでしょうか。また、ベンダーと保険会社はクラウドアプリケーションの重要性についての認識を共有しているのでしょうか。ベンダーはどのような課題を抱え、将来に向けてどのような計画を策定しているのでしょうか。
セレントはベンダー41社を対象に各ベンダーの価格決定モデル、プラットフォーム投資、今後の市場の方向性に関する見通しについて調査し、その結果、ソフトウェア企業のIT幹部は、業務を推進する上でクラウドが重要な役割を担っていることをはっきりと認識していることがわかりました。
調査対象のベンダーのうち半数以上は、現在、自社にとってクラウドは必要不可欠であると回答しています。その他のプロジェクトを優先的に進めているベンダーも、将来的には主要プロジェクトにおけるクラウドの重要性が増すと考えており、75%近くが今後は必要不可欠になると回答しています。クラウド対応ソリューションの普及は拡大傾向にあり、回答者の80%以上がクラウド対応のコアシステムを手掛けています。また、クラウド対応のデータおよび報告ソリューションを手掛けていると回答したベンダーは75%以上、クラウド対応の文書作成およびワークフローソリューションを手掛けているベンダーは60%近くに上っています。
ベンダーの回答をみる限り、既存および潜在顧客の間でクラウドに対する関心がかなり高まっていることがわかります。特に財務改善に対する関心は高く、組織全体のコスト削減を非常に重視しています。一方で、設備投資から営業経費へとコストをシフトすることが極めて重要でなると考えられており、営業経費の予測可能性が向上すれば保険会社によるクラウドの導入が一気に進むと予想されています。保険会社がクラウドへの移行を進めるもう1つの理由としてベンダーが挙げているのは、業務革新です。クラウドを導入することで、迅速な業務遂行が可能になり、新規市場への参入もスピードアップできるとみられるからです。
ベンダーは、クラウドに対する保険会社の関心が高いとみている反面、深刻な懸念要因もいくつか指摘しています。保険会社は、自社に十分なリスク管理能力があるかどうか確認しながら、慎重にクラウドの導入を進めています。ベンダーが最大の懸念として挙げたのは、プライバシーとセキュリティーに関する問題、知的財産侵害の恐れ、法令順守をめぐる懸念です。また、保険会社がクラウドサービスの実際のパフォーマンスについて大きな懸念を抱いていることも指摘しています。具体的には、データの損失、パフォーマンス、アベイラビリティおよび回線容量の問題、保険会社の他のシステムとの統合機能、システムの信頼性および動作可能時間などを挙げています。
顧客対応に関する問題としては、複数の顧客の商品リリースサイクルの管理、顧客対応機能の信頼性とパフォーマンス向上機能、ターゲットとなる顧客基盤の変化が及ぼす影響などが挙げられます。ベンダーは、適正な価格決定モデルの特定についても懸念しています。クラウドモデルへの移行は、ビジネスモデル全体にも様々な影響を及ぼします。ライセンス供与およびプロフェッショナルサービスに基づくビジネスモデルから売上拡大ペースが比較的遅い加入料ベースのビジネスモデルに移行する際に生じる問題もこれに含まれます。さらに、既存のプロフェッショナルサービスの収入機会が減ることも挙げられます。クラウドモデルでは、コスト管理の方法も変わります。ベンダーが懸念しているのは、サービス運用など既存の業務コストをいかに管理するか、サービスの維持に必要なハードウェアおよびシステムエンジニアを配備しつつ、いかにコストを抑えるかといった点です。
「クラウドに対する保険会社の関心の高さはベンダーに大きなビジネスチャンスをもたらす一方で、この市場に参入するベンダーに間違いなく課題を突き付けています。クラウド市場での成功を目指すベンダーは、保険会社の懸念を払拭すると同時に、自社の組織以内で発生する業務およびカルチャー面の課題にも対応する必要があります。現時点でクラウドビジネスの計画を策定していないベンダーは、将来に向けたロードマップの作成を進める時期に来ているといえるでしょう」と、セレント保険グループのリサーチディレクターでレポートを執筆したカーリン・カーナハンは述べています。
レポートでは、クラウドビジネスをめぐるベンダーの取り組みと考え方、クラウドソリューションの現状、マーケティングデータ(一般的な価格設定モデルを含む)、モバイル市場に進出するベンダーが直面する課題の重要性を評価しています。