ニューノーマルへの適応
日本とAPACの金融業界におけるCOVID-19インパクト
APACに拡散するロックダウン
3月17日、米国のシンクタンクであるヘリテージ財団は、シンガポールを「世界で最も自由な経済国」と宣言した。それから1週間も経たないうちに、シンガポールは国境を完全に封鎖した。マレーシアとの間を結ぶ道路と鉄道の橋であるJohor–Singapore Causewayは、毎日のように仕事のために渡ってくる40万人の通行を封鎖した。アジアで最も旅客数の多い空港の一つであるChangi Airportは非居住者の通過を禁止され、シンガポール航空は路線の96%の減便を発表した。
経済・金融のハブとしてのシンガポールや香港、グローバルなサプライチェーンの要としての台湾やバングラデシュ、ベトナム、観光地としてのタイといった、APAC主要国の経済と金融における開放性に依存してきたAPACの経済は、急速かつ包括的な国境の封鎖と孤立を余儀なくされている。今、私たちが目にしている光景は、世界経済がほぼ完全にロックダウン(封鎖)されているということだろう。ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)の要請は、すでに人々の移動を制約ばかりでなく、企業活動におけるサプライチェーンの再考を促している。
ここ数年ASEAN諸国、特にベトナムは、米国が中国との「貿易戦争」の一環として課した関税を回避するために中国からシフトした製造業者を誘致してきた。それ以前にも、製造業者はASEAN諸国間の低率関税を利用して、人件費や政府支援のアービトラージを享受してきた。ベトナムやインドで組み立てられた部品は、それぞれの段階で付加価値をつけながら、何度も国境を越えて移動し完成品となった。COVID-19パンデミックはこのシステムを「崩壊」させる可能性がある。
後戻りは出来ない「ニューノーマル」
こうしたAPACの開放性に依存してきた経済活動にとって、今回の危機は一体何を意味するのか?そしてこのパンデミック状態を最終的にコントロールできた暁には、APACとグローバルなランドスケープはどのように見えるのか?
出張とミーティング、カンファレンスが完全に停止したこの数週間、APACの企業活動はこれまで未体験な空間を彷徨っている。頻繁に出張し、カンファレンスやラウンドテーブルでAPAC各地のソートリーダーと「面談」し、「会食」し、意見交換してきた小職にとっても、2020年上半期のそうしたスケジュールは全てキャンセルされ、Outlookカレンダーは電話会議とWebinar、デジタル・カンファレンスの予定ばかりとなった。セレントのI&IDayもいち早くDigital I&I Dayにシフトし、既に多くの参加登録を頂戴している。(ご登録はこちらから)
これはSF映画のシーンではなく、まもなく「ニューノーマル」となるかもしれない。そして開放性に依存してきたAPAC経済は、もはや後戻りできない新常態を直視することになろう。
国境を越えた人々の移動である国際移住は、移住元の国と移住先の国の両方で、経済的な成長と貧困の削減に多大な影響を与えてきた。世界銀行のデータによると、2013年には2億4,700万人以上の人々が出生国以外の国で生活しており、7億5,000万人以上が自国内で移住して暮らしている。その後数十年の間に、人口動態、グローバリゼーション、気候変動により、国境を越えてもしくは国境を越えずとも地理的な広がりを前提に、移民の圧力が高まることが予想されていた。APAC経済は正にその影響を最大に享受しており、今回の移動制約(もしくはデジタルな移動?)が招く異次元の環境への適応が必要だ。