Abstract
セレントの推計では、2021年に金融機関がマネーロンダリング防止(AML)および本人確認(KYC)関連のコンプライアンスに費やす情報技術(IT)/業務支出は世界全体で371億米ドルに達する。 また、2021年のAML/KYC関連のIT支出は、2020年比で13.4%増加する見通し。IT支出は新型コロナウイルスの影響の衝撃を緩和し、長期的な平均伸び率は回復傾向を辿っている。
パンデミック発生直後の2020年は不正行為のリスクが高まったことから、多くの銀行では不正対策業務が優先され、AML業務は後回しになった。しかし、最近は金融システムが安定し、ニューノーマルにも適応しつつあることから、銀行と規制当局はAMLの監視に再び焦点を当て、業務への取り組みと投資を再開している。銀行ではリモートオンボーディング、ビデオKYC、および類似の機能をサポートする必要性が生じており、直近の18カ月で最優先事項の1つに浮上したのがデジタルオンボーディングである。それに伴い、システムの強化に加え、多くの場合、新しいツールの開発に向けた新たな取り組みが必要になっている。
セレントの推計によると、2021年に全世界でAML/KYC関連のコンプライアンスに費やされるIT支出は107億ドル、業務支出は264億ドルに達する見通しである。
AML/KYC関連のIT支出 (2021年)
Source: Celent
現在もAML関連のIT支出の大部分は銀行が占めているが、規制当局の監視がノンバンク部門にも拡大したことから、最近はノンバンクの割合が高まりつつある。特にKYCとスクリーニングでは、デジタルに注力しているリテールブローカーやウェルスマネジメント企業などに加え、暗号技術プロバイダーといった金融サービスへの新規参入者も新しいソリューションやプロセスを導入している。また、一部の大手銀行持株会社はノンバンク部門(例えば保険)におけるAML管理を変革している。
2010年代の大半において、銀行は規制当局による監視強化に対応するために、多数のAML調査員の部署を創設する傾向が見られた。しかし、最近は新しい技術によって自動化が進み、手作業の必要性が低下していることから、こうした傾向は停滞している。今後も人工知能(AI)、自然言語処理(NLP)、クラウド、新しい暗号技術といった次世代技術への関心は継続し、これらの新技術を活用したレグテックソリューションの採用が拡大することから、手作業による生産性の低い業務に費やされる時間は削減され、優れたインサイトとコンプライアンスが提供されるようになるとセレントは考えている。
本レポートでは、銀行、保険会社、証券会社、資産運用会社など、世界各国の金融機関が費やすAML/KYC関連のIT/業務支出を推計している。その際、世界全体の推定額に加え、以下のような内訳による推定額も算出している。
- 世界の地域別支出額:北米、欧州、アジア、その他の地域
- 3つのAML/KYC主要要素に焦点を当てた機能別支出額:KYC・CDD(顧客デューデリジェンス)、制裁措置スクリーニング、トランザクションモニタリング
- 項目別のIT支出額:社内支出、ハードウェア、外部ソフトウェア、外部サービス
- 業務支出額のトレンド(IT支出以外)
- 金融機関のタイプ/規模別支出額
- 新規開発プロジェクトとシステム保守・管理業務への支出額の比較
- 2022年の主要なテクノロジーのトレンド、および金融機関とソリューションプロバイダーにとっての必須事項