セレントのIT投資に関する調査結果に基づく世界のウェルスマネジャーの最優先課題の分析
最近、セレントのウェルスマネジメント (WM) チームはテクノロジーのインサイトと戦略に関する調査 (CTISS) の結果を発表した。
この調査では、世界各国の200名以上のウェルスマネジャーを対象に、2023年のIT支出の優先事項について尋ねた。本ブログでは、ウェルスマネジメント編から2つの重要ポイントについて取り上げるが、オンラインセミナー (一般公開) とレポート (セレントのWMサブスクリプション会員向け) では、さらに多くのインサイトと分析を紹介している。
IT投資の戦略的ドライバー
セレントはウエルスマネジャーに「貴社の2023年のIT支出戦略における上位3項目は何か?」と尋ねたその回答によると、ウェルスマネジャーは、コンプライアンスのエコシステムにおいてスピード、アジリティ、イノベーションを実現できる業務の確立をIT支出の主な目標と考えている。
優先事項の第1位は「コンプライアンス要件と規制要件の遵守」であった。投資運用業界では、新しいテクノロジー、時代遅れの法律、未来にフォーカスした概念に関連して規制の変更が行われるという状況が続いているため、これがウェルスマネジャーの最優先事項に位置づけられるのは驚くことではない。例えば、米国では最近、証券取引委員会 (SEC) がESGや暗号資産といった比較的新しい概念に関して、既存の規制を変更する提案や、新たな規制を導入する提案を承認しており、その数は数十件に上っている。そのため、ウェルスマネジメント企業は、コンプライアンスの維持に伴うコストの増加だけでなく、新たな規制の遅れや透明性の欠如という問題にも直面している。
こうした状況を背景に成長を続けているのがレグテック業界である。特に、人工知能 (AI) と機械学習 (ML) が搭載されたソリューションは、データ管理、国境を越えた本人確認 (KYC) やマネーロンダリング対策 (AML)、身元証明などに関する複雑な規制に透明性をもたらすものであり、注目すべき業界トレンドと言える。レグテックへの影響は以下を中心に展開する。
・利便性と効率性
・オンデマンド環境で大規模なデータセットを活用する上で、AIと進化する大規模言語モデル (LLM) が重要な役割を果たす
・レグテックプロバイダーは、オペレーションの非効率性とコストの上昇を軽減するために、AI、ML、データアナリティクスへの投資を継続的に行う
優先事項の第2位は「スピードとアジリティの向上」、第3位は「商品とプラットフォームのイノベーション」であった。そのため、レグテック企業は現在、オペレーティングモデルの非効率性に対処すると同時に、モノリシックなアーキテクチャーから、より柔軟なデリバリー、より優れたデータ統合、オペレーショナルコストの削減、スケーラビリティ、および事業のレジリエンスを提供するAPI対応型やクラウド対応型への移行を進めている。例えば、これまでクラウドはインフラコストの削減を目的としたレガシーシステム最新化のためのツールとして考えられていたが、現在ウェルスマネジメント企業は、グリーンフィールドソリューションの創出といったより戦術的な形でクラウドを利用したいと考えている。
2023年の地域別IT支出の優先事項トップ3
「コンプライアンス要件と規制要件の遵守」は、すべての地域において明らかな優先事項となっている。この項目はアジア太平洋、欧州、中央・ラテンアメリカの各地域では優先事項の第1位、北米では第2位、中東・アフリカでは第3位に入っている。中東・アフリカと北米で第1位となったのは「商品提案のイノベーションまたは強化」であった。「スピードとアジリティの向上」の優先度はほぼ一致しており、第3位だった北米を除き、すべての地域で優先事項の第2位であった。特に注目すべき点として、地域間で相対的に一貫性が見られたことがある。すなわち、ウェルスマネジメント企業はイノベーションを促進する分野に投資しており、特にテクノロジーインフラを強化することで競争優位を確立し、顧客エクスペリエンスの向上といったより広範でテーマ性の高い目標を達成することに重点を置いている。
スピードとアジリティは、革新的な商品の創造と密接に関係している。ここでもクラウドの例を見てみると、ウェルスマネジャーは、1) オペレーショナルコストの削減を目的に行うレガシーシステムの最新化、および 2) 分析に基づく商品や顧客エクスペリエンスに重点を置く商品といったグリーンフィールドソリューションの創出、という2つの異なる方針に基づいてクラウドを導入している。また、クラウドは量子コンピューティング分野においても広く利用されており、金融サービスにおける同分野の具体的なユースケースは、ターゲティングと予測、トレーディングの最適化、リスクプロファイリングの3つに主に分類される。
最後に、顧客エクスペリエンスの最適化や競争優位の確立といった包括的な目標に沿ったアーキテクチャの変革に焦点が当てられていることが分かる。
ウェルスマネジメントのオンラインセミナーとレポートは、以下で見ることができる。
オンラインセミナー:テクノロジーの優先事項2023:ウェルスマネジメント | celent.com