米国先物市場: シカゴを舞台に三つ巴の競争
Abstract
シカゴを本拠とする先物市場間の競争は、上場商品の単なるシェア争いにとどまらず、市場全体での生き残りをかけた闘いとなっています。
ユーレックス(ドイツ証券取引所とスイス証券取引所)が、CBOT(シカゴ商品取引所)が主導権を握る米国債先物市場への参入を発表した際、市場ウォッチャーの間では支配的先物市場の先行きについて熱い議論が交わされました。主な論点は、取引を完全電子化したユーレックスの新規参入でシカゴの既存取引所の伝統的な立会場取引が衰退することになるのか、既存取引所はどのような対抗策を講じるのか、というものでした。しかし、こうした議論では、成功のバロメーターとして、市場シェアや流動性ばかりに注目が集まっていました。
セレントの最新レポート「米国の先物市場:シカゴを舞台に三つ巴の競争」は、CBOT、CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)および米国ユーレックスという、いずれもシカゴに拠点を置く3つの先物取引所について分析しています。レポートでは、各取引所の事業戦略を分析した結果、既存の取引所が3者間の競争を単なる市場シェア争いから先物市場全体における最終的な適者生存競争へと巧みに変換させたことを明らかにしています。
レポートは、3つの取引所の進化の過程を検証しています。また、決済機関を含めて米国先物市場の様々な参加者同士の微妙な関係を浮き彫りにしています。さらに、CBOTとCMEで進む取引電子化への移行、米国ユーレックスの参入に伴う事業戦略の転換といった、両取引所の事業環境についても簡単に触れ、それぞれの財務状況も分析しています。一方、ユーレックスに関しては、米国進出の承認過程で指摘された問題点を含め、同取引所の市場構造を詳細に分析しています。
セレントの予測では、米国ユーレックスが米国債先物市場におけるCBOTの支配的立場を覆すだけの流動性を確保することは難しいとみています。しかし、ユーレックスには、ユーレックス・クリアリングとクリアリング・コーポレーションの提携による世界の決済リンク形成構想という唯一の武器が残されています。米国ユーレックスが生き残るか否かにかかわらず、CBOTとCMEは自らの事業戦略の転換や、単なるシェア争いを付帯的とはいえ重要なサービスを巡る競争に変えることに成功しました。これらの市場は、簡単に模倣や(取引の他の多くの要素のように)コモディティ化ができない取引ライフサイクルの川上領域に移行したといえるでしょう。
このレポートを執筆したジョディ・バーンズは次のように述べています。「仮に米国ユーレックスが生存競争に敗れたとしても、同取引所が先物市場で果たした重要な役割を過小評価すべきではないでしょう。ユーレックスの米国参入がなければ、CMEもCBOTも取引所会員のニーズ(代替性など)を尊重する必要性に気づかず、従来の事業戦略を見直すきっかけを得られなかったからです。このような変化が米国先物市場の質の向上を促したのであり、それだけでも米国市場はユーレックスに感謝すべきなのです。これこそ競争による成果の完璧な例といえるでしょう。」
このレポートは13のグラフを含む全49ページから構成されています。