退職年金と資産分配計画
Abstract
米国では2008年以降に7,300万人に上るベビーブーマー世代が定年退職を迎え、公的年金の受給対象となります。その結果、現在退職貯蓄口座に預けられている12兆ドル(約1292兆円)を含む総額19兆ドル(約2046兆円)の資産が市場に流入すると考えられます。金融機関が大規模な資産流出を防ぐためには、①資産分配段階におけるアドバイスの提供②フィナンシャル・アドバイザーを正当に処遇し、顧客に優れた提案を行うようモチベーションを高めるという適切なビジネスモデルの確立―が求められるでしょう。
先進国の一般世帯にとって、退職年金の分配と所得計画は「資産運用計画の失われた環」といわれてきました。つい1~2年前まで、資産運用計画といえば資産形成段階ばかりに焦点が置かれ、定年退職を控えた投資家が下すべき意思決定についてはほとんど触れられてきませんでした。運用ツールの不足、フィナンシャル・アドバイザーへの報酬が不十分なために適切な助言が得られにくいなど、様々な面で、快適な引退生活を迎えるために十分な資産を蓄積したと考えていたベビーブーマー世代に不利な状況となっています。
セレントの最新レポート「退職年金と資産分配計画」は、資産形成段階以降に潜在する問題、それに伴う意思決定、フィナンシャル・アドバイザーが顧客に定年後の資産運用計画を提案するためのツールについて論じています。新しいツールも開発されていますが、人々が資産を増やすために預金や投資を行ってきた資産形成段階と同じかそれ以上の長期にわたる資産分配段階では、その間に発生し得る様々な不確定要素に対応可能なより多くのツールが必要となります。「退職年金と資産分配計画を最も必要としているのは、北米のマス富裕層や富裕層です。超富裕層は資産運用計画を立てる必要がなく、マスマーケット層はそうした計画を立てるほどの資産を保有していないからです。これらの人々にとって、資産形成段階後の失敗は定年後の生活スタイルに大きな影響を与えかねません。失敗をしている余裕などないのです。」とセレントのウェルネス・マネジメント・プラクティスのシニアアナリストでレポートを執筆したロバート・J・エリスはのべています。
レポートでは退職年金と資産分配計画の本質を明らかにした上で、それが個人および社会全体にとってどのような重要性を持つかを検証しています。また、資産分配段階と資産形成段階が大きく異なる理由についても考察しています。
さらにレポートでは、資産形成後のプランニングに対応する様々な資産運用計画ソフトを評価しています。具体的にはAdviceAmerica、ASI、CGI、EISI、eMoney Advisor、Fidelity、FundQuest、Impact Technologies、Money Tree、NorthStar、PlanPlus、PIE、Windham Capitalといったベンダーが提供する製品を取り上げています。これらのシステムの概要を検証し、セレントの評価ツール「ABCDベンダービュー」を使って比較しました。分析結果として、①テクノロジーの先進性②機能の幅③顧客基盤(契約顧客数)④顧客サービスの充実度に基づく各ベンダーの相対的な位置付けを一目でわかるように図表化しています。
さらに、中小ベンダーが提供する独自の退職年金・資産運用計画ツールや一般にあまり知られていないタイプのツールも分析しています。最後に、退職年金と資産分配計画の将来を展望し、結論を示しました。
78ページから成るレポートには37図と5表が含まれています。フィナンシャル・アドバイザーが定年後の資産運用計画や資産分配をサポートする上で不可欠なツールとして、資産運用計画に対応する既存または開発中のシステムの画面の一例も掲載しました。
注)米ドルから日本円への換算レートは、2008年1月31日の仲値(三菱東京UFJ銀行公表による)を参照。