2020年の自律志向型投資家と証券市場
Abstract
自律志向型の個人投資家市場は大きな構造的変化に直面しており、競争が激化している。しかし、証券業界には依然として自らを改革し、新たな顧客を獲得する機会が豊富にある。米国(一部はカナダ)における今や当たり前となった手数料無料化に向けた競争、SchwabとTD Ameritradeの合併(後者は2017年にScottradeを買収)、およびMorgan StanleyによるE-Trade買収は、証券業界を揺るがした。同様に、投資家によるデジタル志向とオーダーメイドサービスへのニーズの高まりに加え、新型コロナウイルスのパンデミック、政情不安や市況の変動といった外的要因が世界の投資家やプラットフォームにも計り知れない影響を及ぼしている。安価な手数料から手数料ゼロへの移行により、証券会社は顧客エクスペリエンスや代替的収益源といった別の側面で差別化を図っている。今日のようにデジタル環境が進化し、投資家がクリックするだけで情報が拡散する状況下では、金融市場の参入障壁は最小限になっており、もはや金融市場は機関投資家や富裕層だけのものではなくなっている。金融市場の民主化という目標は現実のものとなりつつある。
ここ10年ほどの間に、証券会社は口座を保有する静的な取引プラットフォームを、対話型で魅力あるフィナンシャルパートナーへと転換してきた。アクティブトレーダー向けの取引ツールの統合、差別化機能(カスタマイズ性の向上など)、チャート機能の強化、行動変容を促すナッジ、アラート機能、総括的なアイデア創出ツール、音声アシスト取引、機動的なモバイル取引、ペーパートレーディングなどは、2020年の自律志向型投資家を対象としたデジタル機能の一部である。
セレントは、こうした中核となる顧客基盤の変化に加え、増え続ける既存あるいはニッチな証券取引プラットフォームと、それによる既存の証券市場への圧力を分析していく。また、新型コロナウイルスのパンデミックが証券取引プラットフォームや投資家基盤に与えた影響(特に、ESG投資やゴールベース・プランニング・ツールに対するニーズ)についても検証する。
デジタルの取り組みの追求は、資産管理や証券市場にとって新しい動きというわけではない。しかし、優れたデジタル機能、取引エクスペリエンス、およびプラットフォームの提供に向けた競争は、今日の主要な市場プレーヤーの原動力となっている。デジタルの取り組みは、既存顧客を維持しつつ、追加資産と新規投資家を獲得したいと考えている証券会社にとって鍵となる分野である。こうした取り組みには、エンドユーザーが目にするデジタル機能(UI)だけでなく、AIがもたらすインサイト、クラウドコンピューティング、オープンAPIアーキテクチャといったプラットフォームの基盤テクノロジーや、データおよびアナリティクスの戦略的な活用も含まれている。次の第2弾、第3弾のレポートでは、証券業界における最新テクノロジーの導入とZ世代の投資家の増加について取り上げる。
(詳しい情報は、セレント北川俊来TKitagawa@celent.comまでお問合せください)