社会的責任投資: イスラム法に適った投資
Abstract
現在、イスラム法(=シャリア)に適った投資活動は拡大しています。今後は、市場インフラが整備され、資産規模が拡大するにしたがって、世界の金融市場の中でも重要かつ高収益なセグメントに成長する見込みです。
現在、イスラム法に適った金融商品市場は、数多くのイスラム系企業や国際的な投資銀行が取り組んだ結果、世界経済に根付きつつあります。ファイナンシャル・タイムズは最近、イスラム法に則った世界初の債券流通市場がロンドンに設立されたと報じています。また、同様の計画や商品開発が世界中で進行しています。セレントは最新レポート「社会的責任投資:イスラム法に適った投資」で、このような新規投資計画やイスラム関連商品に対する関心の高まり、そして潤沢な資産を持つ投資家の存在によって、イスラム法に適った金融商品の資産残高は、株式ファンドだけでも現在の155億米ドル(約1兆8900億円)から2010年には538億米ドル(約6兆5500億円)に急増すると予測しています。
イスラム法に適った金融商品には、銀行商品から住宅ローン担保証券、商品担保融資、通貨スワップ、マレーシアの資産担保証券、投資および株式連動型商品など、あらゆる商品が含まれ、需要の顕在化に伴い、商品の範囲は広がり続けます。特にデリバティブの分野が注目されており、優れた商品開発力を持つ金融機関は、従来のデリバティブ証券のイスラム版を構築することを試みています。そのため、今後はイスラム版の債務担保証券(CDO)、スワップ、為替オプション、仕組債などの発表が相次ぐでしょう。
イスラム法は、イスラム教徒の生活全般に影響力を持っています。この法律では、社会全体に富が配分されているか、利益がどのように生じたか、また利益と損失がどのように共有されているかという点は見逃せないことなのです。実際に、現代の証券市場の多くはイスラム法を遵守する人々の投資対象になり得ず、今後もこの法の下で、金融機関はこの難しい課題を克服する必要があります。
一方、イスラムの金融センターは世界の金融機関に徐々に門戸を開きつつあり、それがイスラム債券の流通市場のさらなる発展を支えると思われます。同様に、豊富な人材と優れた開発力を備えた大手金融機関はあらゆる資産クラスでイスラム証券市場の育成を急ピッチで進めており、今後もその取り組みを続けるでしょう。イスラム証券の流通市場拡大に伴い、資産運用業界ではポートフォリオ管理商品の開発・販売がますます活発化するとみられます。しかし現時点では、金融機関は下記に挙げる複数の課題によって本格的な市場参入を阻まれており、レポートでこれら課題について詳しく解説しています。
表1: 商品開発・販売を巡る課題 |
イスラム系人材の不足 |
一般社会の法律とイスラム法のいずれを優先させるか |
発展途上国市場では規制、監督、消費者保護が徹底されていない |
イスラム法が定型化されていない |
定型化された文書がない |
投資教育の欠如 |
リテール部門の貯蓄率が低い |
外資系金融機関は既に参入しており、必要とされているが、歓迎されているかどうかは不明 |
出所: セレント |
メリルリンチとキャップ・ジェミニの調査によると、中東地域には金融総資産が1.2兆ドル(約146兆円)を超える個人の超富裕層が世界で最も集中しており、多くは地域に根ざした資産投資を望んでいるというのが一般的な見解です。こうした巨大な富に加え、世界には15億人のイスラム教徒がいることを考慮すると、イスラム世界の資産運用市場は非常に大きな成長性を秘めていると言えます。
"セレントは、イスラムの資産運用ビジネスが一気に発展する可能性があると考えています。特に、証券市場と資産運用ビジネスに関連する多くの金融機関にとって「足固め」の年と位置づけられる2007年以降にその傾向は強まるでしょう。また、各種市場調査で、イスラム教徒は運用パフォーマンスが同じであればイスラム法に適った商品を選択するという結果が出ています。」と、レポートの執筆者であるシニアアナリストデニース・バレンタインは述べています。
本レポートでは、イスラム法と中東市場の発展状況、イスラム金融に積極的に進出している金融機関、この分野の強化を図る金融機関が直面している課題などについて説明しています。
本レポートは3図と8表を含む28ページで構成されています。
注)ドルから日本円への換算レートは、2007年1月31日の仲値(東京三菱銀行公表による)を参照。