2004年以降の保険業界の見通しと戦略的課題
Abstract
セレントの最新レポートは、保険会社が直面する厳しい事業環境と成功のために不可欠な事業戦略、テクノロジー、組織体制について検証しています。
保険会社にとって市場動向や事業環境は改善しつつあるとはいえ、業界を取り巻く状況は依然として極めて厳しいといえるでしょう。競争の激化、潜在的損失の拡大、組織の肥大化、投資市場動向への過大な依存などは、いずれも業界の差し迫った課題です。
「これらの課題を克服するため、保険会社の間では中核事業の再強化に乗り出す動きがみられます」と、本レポートの共著者でセレントの保険グループマネジャーであるマシュー・ジョセフォウイッツは述べています。「急成長期には多くの保険会社が自らの業務能力や資金力を省みず、野心的な事業拡大に走りました。このような時代が3年ほど前に終わった後も、業界内では惰性的な拡大競争が尾を引いていましたが、ここにきてようやく変化の兆しが見えてきました。業績を伸ばしている保険会社は経営戦略、目標、事業内容の見直しを行い、得意分野での収益向上を図っています。その結果、一方では周辺資産の売却を進める企業が、他方では戦略上の補完事業を取得する例も出ており、このような各社の戦略転換が業界全体に及ぶ再編の波に発展しているとみられます。」
投資市場の低迷は業界共通のリスク要因ですが、保険分野別にみるとそれぞれ異なる圧力に悩まされていることがわかります。損害保険会社は、再保険料の上昇やアスベスト訴訟のような大規模訴訟の発生リスクによって経営が圧迫されています。また、生命保険会社は、市場の縮小といった大きな問題に加え、従来とは異なる業種からの参入による競争激化といった問題にも直面しています。一方、医療保険会社は、不透明な規制環境、コスト増、時代遅れの販売体制、保険料の値上げに対する市場の抵抗などへの取り組みを迫られています。
これらの課題を克服するためには、保険会社は次の3つの経営戦略を重点的に進める必要があるでしょう。すなわち、事業の収益性および持続性の向上を図ること、顧客に独自の価値を提供すること、重要な事業関係者に十分なサービスを提供すること、の3点です。
これらの戦略を遂行するにあたっては、新しいプロジェクトと既存の業務を同時にサポートできるITシステムを備えていることが必須条件となります。保険会社はテクノロジーで最高ランクの格付けを取得するための努力を惜しむべきでないとセレントは考えます。このようなシステムには、業務部門とIT部門の連携を強める事ができ、機敏性が高く、すべての重要な関係者やファイアウォール内外にあるサブシステムからのアクセスが安易で、しかもコスト的にもリーズナブルであることが要求されます。
テクノロジー投資は保険会社にとって極めて重要な戦略であり、その投資規模はますます拡大する傾向にあります。しかし、戦略遂行のためには、社内の再編や従業員インセンティブの導入といった組織上の課題にも同時に目を向ける必要があります。「たとえ世界最高のシステムを導入しても、これに応じた社内組織や従業員インセンティブ制度の整備なしには巧く機能するはずはないのです」と、ジョセフォウイッツはコメントしています。
セレントは、保険業界が2004年以降に注力すべき課題として以下の7点を指摘します。(1)十分な収益性分析と正確な価格設定を基に引き受け業務の収益力向上を図る、(2)準備金の増強と信用格付けの向上を目指し、このため必要であれば事業の縮小に踏み切る、(3)顧客ターゲットを絞り込み、独自の価値を提供する、(4)影響力の強い重要な事業関係者に十分なサービスを提供する、(5)戦略目標に応じた組織体制を整備する、(6)収益性向上を促す賃金体系を整える、(7)経営目標に合致したIT投資を行なう。
本レポートは13のグラフを含む24ページから構成されています。