電子インボイス:請求書データ交換が加速するSMEバンキングの革新
領収書・請求書等の電子化に関する動向とイノベーションの機会
Abstract
インボイス制度は、2019年に消費税が複数税率となったことを受けて適正な消費税の仕入税額控除を行うことを目的にしたもので、2023年10月から導入される予定となっています。全銀EDIシステム(ZEDI)を活用した電子インボイス対応は、その恰好なターゲット・ユースケースとして期待される一方で、ZEDI単体の利用では、「電子帳簿保存法」の要件において保存期間、可読性、検索性などの課題もあります。
本稿は、電子インボイスを巡るグローバル動向、なかでも先行する欧州での成功事例を紹介し、領収書・請求書等の電子化をイノベーションの機会、対象、実行の観点から分析し、SMEバンキングの革新を提唱します。
イノベーションの機会
電子インボイスとは、適格請求書等保存方式(以後「インボイス制度」)において仕入税額控除に必須となる適格請求書を電子化する仕組みのこと。インボイス制度は、2019年に消費税が複数税率となったことを受けて、適正な消費税の仕入税額控除を行うことを目的にしたもので、2023年10月から導入される予定となっている。インボイス制度が始まると、適格請求書発行事業者が発行した請求書のみが仕入税額控除の計算対象となり、それ以外(免税事業者など)の請求書では仕入税額控除が受けられなくなる。この適格請求書を取り扱うことによって、買い手・売り手双方にこれまでにない業務負荷が発生することが懸念され、ここにイノベーションの機会が存在する。政府と会計システムなどを手がける民間企業団体が協議を開始し、来るインボイス制度開始に向けて企業間でやり取りする請求書の完全なデジタル化、つまり“電子インボイス”(E-Invoicing)の導入検討が始まっている。
全銀EDIシステム(ZEDI)を活用した電子インボイス対応は、その恰好なターゲット・ユースケースとして期待される。一方で、ZEDI単体の利用では、「電子帳簿保存法」に従った保存要件を充足することができない。このため電子インボイス対応にZEDIを活用するには、企業サイドの会計/ ERPシステムのZEDI対応が必要不可欠となる。そこでの課題は、保存期間の問題、可読性確保の問題、検索性確保の問題であり、いずれもイノベーションの機会となる。全銀EDI(ZEDI)はもとよりメッセージ電文の受送信システムであり、そのEDIデータの保存、可読性(ZEDIは暗号データ)、検索可能性において「電子インボイス」対応業務に未充足である。
イノベーションの対象
2010年、欧州連合は、電子請求書が紙の請求書と同じ法的地位を持つことを義務付ける指令を出し、電子請求書の真正性と完全性は、電子署名だけでなく、電子データ交換(EDI)などの技術によってサポートされる。その後、EUは2014年に追加指令を出し、欧州共通の規格とともに、企業と政府間の公的契約(B2G)の電子請求書の受領と処理を加盟国に求めている。国やプロバイダーによってフラグメント(断片化)されているため、2011年にPEPPOL(Pan-European Public Procurement Online)が設立された。
Peppolは電子調達プラットフォームではなく、既存の電子調達ソリューションや電子ビジネス交換サービスに実装して、異種システム間の相互運用を可能にするための技術仕様一式を提供するもの。Peppolは、3つの主要な柱に基づいている。
- ネットワーク(Peppol eDelivery Network)
- 文書仕様(Peppol Business Interoperability Specifications 'BIS')
- ネットワーク・ガバナンスを定義する法的枠組み(Peppol Transport Infrastructure Agreements - TIA)