決済ダムの決壊:決済エコシステムを変革する外的要因
Abstract
本レポートは、HSBCの委託を受けてセレントが発行するレポートシリーズの第1弾で、今後数年間で決済業界を大きく変える起爆剤になるとみられる外的要因を浮き彫りにします。
KEY RESEARCH QUESTIONS | |
1 | 決済エコシステムの変革を主導する要因は何か? |
2 |
決済エコシステムはどのように変化するか? |
3 | キープレーヤーはプロセスと相互関係をいかに進化させるべきか? |
本レポートは、銀行プラクティスのシニア・アナリストであるガレス・ロッジが執筆しました。
スタート時は画期的だったものの、その後コモディティ化してしまうということはよくあります。一方、コモディティ化されているユーティリティーが輝きを得て再び表舞台に戻ってくることは稀といえます。その中で、「決済」は通常なら実現するまでに数十年かかる成功が「一夜にして」実現してしまう可能性を秘めています。決済の現代化に対するニーズは日に日に強まり、変化を押しとどめているダムには巨大な圧力がかかっています。新規参入者や新たな手段の登場により、「決済」は停滞した(だが必要な)水たまりから、バンキングの他の分野を上回るスタートアップや投資が流入する場所へと変化しています。
こうした劇的な変化の背景には、テクノロジーだけではなく複数の要因があります。30年前、銀行は最先端を行く存在でしたが、ここ10年は停滞したままで顧客の銀行離れが加速しています。実際のところ、銀行はテクノロジー面で一進一退を繰り返しており、それが多くの面で顕著になってきました。需要サイドでは、企業が業務プロセスに合ったより高度なソリューションを求めている一方、供給サイドでは、新しいタイプのサプライヤー(フィンテック企業)が市場に参入しています。
その結果、従来は銀行だけで形成されていた市場にフィンテックが参入し始め、決済エコシステムは急速に進化しています。しかし、こうした力が複雑で細かく調整された決済エコシステムにどのような影響を及ぼすのか、またエコシステムがそれに合わせてどのように進化するのかはいまだ不透明です。
「銀行業界は今、『シャッターチャンス』を目の前にしており、素早く進化しなければフィンテック企業に取って代わられるとの見方をする向きもあります。ただ、セレントの見解は少し違っています。我々は、バンキングが変化しても銀行そのもの(少なくとも全ての銀行)が消えることはないと考えます。多くの市場に新たなチャレンジャーが進出し、銀行は淘汰はされるはずですが、銀行が消えてしまえばフィンテック企業と顧客の両方に打撃が及ぶため、それは望まれていないはずです」とロッジは述べています。
企業、銀行、フィンテック企業はスタート地点、戦略およびゴールがそれぞれ異なるため、三者間の緊張が高まるのは間違いないでしょう。結局のところ、最も変わらなければならないのは銀行であり、より迅速かつ全面的に適応できた銀行が勝者となるでしょう。ただ、決済システムのダムが崩壊すれば、エコシステムに属する全てのプレーヤーが手堅い戦略とパートナーを確保して次の激流に備える必要があります。