「ハンズフリー」ドライビングについての考察
「ハンズフリー」ドライビングをめぐるニュースを目にする機会が増えたが、必ずしも良いニュースだけではない。最近では、テスラ社の2019年型「テスラモデルS」がテキサス州ヒューストン近郊で高スピードのまま木に衝突し、乗車していた2人が死亡した。報道によると、衝突時に1人は助手席に、もう1人は後部座席に乗っており、運転席には誰もいなかった。だが、テスラのイーロン・マスクCEOは、同社の調査によると当該車に搭載されている「オートパイロット」機能は作動していなかったとツイートした。
ちなみに、昨年2月には米道路交通安全局(NHTSA)が、同社の運転支援機能の搭載車が関与した14件の衝突事故について調査を開始した。
現在の混乱に拍車をかけているのは、NHTSAと交通安全を司るもう1つの連邦機関である国家運輸安全委員会(NTSB)との間で意見の対立が表れていることだ。NTSBは、テスラ車による複数の衝突事故に対する NHTSAの監督責任について公然と疑問を投げかけている。また、連邦議会の複数の議員もNHTSAに対して先進運転支援システム(ADAS)の規制強化を求めている。
こうした一連の動きの背景には、コンシューマー・レポート誌が「アクティブ・ドライビング・アシスト(ADA)」技術と呼ぶ機能を何らかの形で提供する自動車メーカーが急速に増えていることがある。同誌は2020年10月にこうした機能を持つ17のシステムの評価結果を掲載したが、その2年前に同様の評価を行った際には対象となるシステムはわずか4つにすぎなかった。2020年版で取り上げた自動車の価格レンジは、キャデラック、テスラ、BMWからホンダ、トヨタ、マツダまで非常に幅広くなっている。
コンシューマー・レポート誌はADA技術について、車間距離制御(ACC)と車線維持支援(LKA)を同時に動作するシステムと定義している。ACCはアクセルとブレーキを制御し、先行車と一定の車間距離を維持するしくみである。LKAはハンドル操作を制御することで、車両を道路上に示された車線境界線内に維持する。同誌の記事では、ADAは自動運転技術と同一とは言えず、ドライバーのストレスと疲労を軽減することで運転を支援しているにすぎないと警告している。
安全性(および損失保証)の観点からみると、もしドライバーが走行している道路に視線を向け、ハンドルを握っている(または定期的に握る)とすれば、これでよしとするしかないだろう。
一方、2021年4月22日発行の同誌の記事では、テストドライバーが「テスラモデルY」を使い、閉鎖された試験用トラックで運転席が無人の車を試験走行させた様子を解説している。テストドライバーがテスラ車のハンドルに重りのついたチェーン(ドライバーの手の重みに似せるため)を置いてそのまま助手席に移動し、ハンドルのダイヤルを使って約800mの試験用トラックを複数回走行した。それ以外の操作は「オートパイロット」が行った。
我々が自動車保険を提供する立場なら、個別車種に搭載されているADAS機能のデータが入手可能で、さらに望ましいのは、ADAS機能が作動するタイミング、場所および方法に関するデータが得られる新たな世界が到来した際には、以下の点をチェックするだろう。
・自動車メーカーが自社のADA技術につける名称。これらの名称はコンセプトを伝え、ドライバーに何らかの期待感を抱かせるものである。以下はその例である。
Øテスラは「オートパイロット」、ランドローバーは「イン・コントロール」、ポルシェは「アクティブ・セーフ」と命名している。
Ø一方、メルセデスベンツは「ドライバー・アシスタンス」、日産自動車は「プロパイロット・アシスト」, BMWは「ドライビング・アシスタンス・プロフェッショナル」と呼んでいる。
・ADA機能の作動時におけるドライバーの関与をモニタリングする機能の設計特性。例えば、ドライバーが定期的にハンドルに手を置く必要性など(個別に取り上げたのはキャデラックの「スーパー・クルーズ」システムで、内側に搭載されたカメラでドライバーの視線の先をモニタリングする)。
・従来のテレマティクスデータ(スピード、急加速/急減速)とADA機能の利用を組み合わせることで、ドライバーのリスク傾向に関する仮説を検証。