オープンバンキングを利用した中小企業向け価値提案の強化
イノベーションとサービスを強化する絶好の機会
Key research questions
- オープンバンキングとエンベデッド・ファイナンスは中小企業向けバンキングの性質をどのように変えているか?
- TPPがオープンバンキングを利用している中小企業にもたらす10のバリュープロポジションとは?
- 既存の銀行はどのようにオープンバンキングを活用し、対応すべきか?
Abstract
金融業界にとって、中小企業向けバンキングを「正しく」理解することは大きなチャンスにつながる。中小企業向けバンキングサービスの市場は大規模で非常にダイナミックであるにもかかわらず、多くの銀行は中小企業のニーズに応えていない。
この状況は今に始まったことではなく、そのため以前から様々なニッチ・プロバイダーやノンバンク・プロバイダーがバリューチェーンに参入し、中小企業向けビジネスのシェア獲得にしのぎを削っている。かねてより中小企業向けバンキングサービスは様々なプロバイダーが提供する複数の構成コンポーネントに分割されると予想されていたが、現在はまさにそれを目の当たりにしているとも言える。これは、既存の銀行にとって大きな問題である。まだ転換点には達していないが、金融機関は戦略的対応を検討すべきであり、さもなければ中小企業向けバンキングの収益の相当部分が将来的にリスクに晒されることになる。
オープンバンキングに加え、サービス改善に向けてエンベデッド・ファイナンスを利用する機会がもたらされたことで、この競争上の脅威は益々高まっている。欧州では、特にPSD2(第二次欧州決済サービス指令)によって新たなプロバイダーのバリューチェーンへの参入が加速しており、すべてのサードパーティプロバイダー(TPP)が付加価値製品の強化を実現できるようになっている。2020年第1四半期末時点で、欧州では106社のTPPがPSD2を活用し、中小企業にサービスを提供している。こうしたTPPからは10の明確なバリュープロポジションが提供されており、これらは以下の4つのカテゴリーに分類される。
- TPPのサービスへの中小企業口座データの組み込み。ここでは、マルチバンキング(複数金融機関との取引)、予測、アナリティクスのサービスが中心になる。
- 融資とクレジット。多くの場合、オープンバンキングを活用してアプリケーションプロセスを合理化する。
- 決済。請求プロセスを強化し、口座間取引の受付を容易にする。
- 顧客口座データの活用。ユースケースには、カスタマーオンボーディングやロイヤルティサービスが含まれる。
図表1中小企業サービスを手掛ける欧州のTPPのランドスケープ (代表的企業のみ表示)
この分析は欧州を対象としたものだが、分析結果と影響は大半の主要市場における中小企業向けバンキングにも同様に当てはまる。セレントは、金融機関に3つの戦略的対応を推奨している。
- 革新的なTPP、あるいは広範囲に事業を展開しているTPPとパートナーシップを形成することは、サービス提供の範囲拡大を目指している金融機関にとって最も明確で手っ取り早い方法である。
- オープンバンキングを活用し、中小企業向けバンキングの中核的な提案を直接的に強化する。金融機関は少なくとも、マルチバンキングと予測サービスの提供に加え、中小企業が顧客からの口座間決済を受け付けることができるように、請求機能と提案の強化について検討すべきである。
- 銀行はエンベデッド・ファイナンスの機会に投資すべきである。中小企業顧客をパートナーであるTPPに紹介し、円滑なオンボーディングとサービスエクスペリエンスを保証することは、顧客関係の維持と強化に役立つほか、顧客と関わりを持つTPPに対して一定の影響力を維持することにも役立つ。