AIによるメインフレームシステムの変革:移行の最適化とAI機能の拡張
保険業界ではメインフレームシステムが主要業務の基盤として使われ、重要な役割を担ってきた。それらのシステムは膨大な量のデータの管理と、エンタープライズ・システムのアプリケーションのサポートに秀でている。メインフレームはその信頼性、拡張可能性、優れた計算能力で高く評価されており、大規模なデータ処理タスクをこなす上で非常に有益である。また、大量の作業負荷に対応できる一方、データの整合性を維持できるため、複雑でミッションクリティカルなアプリケーションを扱う組織にとって不可欠なシステムとなっている。IBMの報告によると、 Fortune 100に選ばれた企業の3分の2以上はいまだ同社のシステム製品ファミリー1に依存している。
テクノロジーの急速な進化に伴い、従来のメインフレームシステムの限界が徐々に顕著化しつつある。システムを最新のビジネス要件に対応させるためのサポートが必要となるケースが増え、機敏性、拡張可能性、コスト効率を阻害する要因となっている。クラウドは複数の場所やサーバーに分散された計算能力を利用できるのに対し、メインフレームは自らのハードウェアに備わった計算能力に限定される。また後者は、新しいアプリケーションを統合するためのサポートも必要であり、新規アプリケーションの開発ツールとして望ましいとは言えない。システム現代化とクラウド導入に向けた動きが広がる一方で、多くの保険会社にとってメインフレームの撤廃は実行可能な選択肢ではない。
ここにきて人工知能(AI)が目覚ましい勢いで拡大し、その導入が進んでいる。AIのアルゴリズムおよびマシンラーニングモデルは、膨大なデータの分析、パターンの検索、予測または推薦の提供を可能にする。この革新的テクノロジーは、保険業界にも多大な影響を及ぼしている。関連企業は業務プロセスの自動化、意思決定の強化、全体的な効率性の向上を通じて、AIの利用を業界の飛躍的な前進につなげることができる。
メインフレームとAIの両方の強みを活用することで、企業は新たなビジネス機会を切り開き、業務の大幅な効率化を実現できるだろう。メインフレームの堅牢性と信頼性にAIの持つ分析および予測能力が加われば、データ処理、意思決定や全体の業績を大きく前進させることも可能だ。メインフレームとAIのシナジー効果は、自社のコンピューティング・インフラの最適化と両テクノロジーがもたらすメリットの活用を目指す企業にとって有望な手段となろう。
レガシーアプリケーションの現代化
レガシーアプリケーションをメインフレームから現代的なプラットフォームに移行させる作業は複雑で資源集約的になる可能性がある。だが、AIの能力を活用することでプロセスを簡略化することができる。AIは、複雑なタスクの自動化や効率性の向上を通じてメインフレームの現代化を促すという重要な役割を果たすことができる。生成AIはコード変換、遡及的な文書作成、テスト作業に役立ち、COBOL言語などを使って開発されたレガシーアプリケーションの現代化を容易にする。これにより、移行に要する時間と労力が大幅に削減され、データの整合性を維持しつつ、シームレスな移行が可能になる。
市場には、メインフレームアプリケーションのクラウドへの移行を容易にするためのツールが数多く投入されている。AWSやGoogleといったハイパースケール企業は、AIの能力と生成AIの機能を使ってリファクタリングと移行プロセスを評価・支援するための高度なツールを提供している。この分野をリードするIBMは独自のツールを提供しており、中でも「Watsonx™ Code Assistant for Z」はメインフレームのアプリケーションのライフサイクルを加速し、現代化プロセスを合理化することに特化した製品である。
これらのツールは、アプリケーション開発者のライフサイクル全体を通じて総合的なサポートを提供する。アプリケーションの発見・分析機能から始まり、開発者が既存のメインフレームのアプリケーションの内容を十分把握できるようにする。また、コードの説明を行うことで、開発者がコードの複雑さを理解し、改善すべき領域を特定できるようにする。もう1つの重要機能はコードリファクタリングの自動化で、開発者は既存のアプリケーションのうち対象となる要素を選んでリファクタリングを行い、そのプロセスを自動化できるため、貴重な時間と労力の削減が可能になる。さらに、コードを最適化するためのアドバイスを提供し、開発者のパフォーマンスとコードの効率性向上を後押しする。あるいは、開発者は生成AIの能力を使って既存のコードを現代的なプログラミング言語に変換することができる。
メインフレームの計算能力:
メインフレームは長年にわたりその信頼性、拡張可能性と処理能力の高さが評価され、重要な業務運営の骨格となってきた。今や時代遅れと見なされるようになってきたとはいえ、メインフレームはAIアプリケーションに適した独自の特性を備えている。
メインフレームがAIにとって最適と考えられる理由:
- 膨大な貴重データの蓄積: メインフレームは広範に及ぶ貴重なデータを蓄積し、それらのデータは構造化されたフォーマットで保管されている場合が多い。それらのデータはAIモデルのトレーニングに使える貴重なリソースとなり得る。企業はこれらのデータを活用することで、AIアルゴリズムの正確性とパフォーマンスを向上させ、より豊富な情報に基づく意思決定や予測能力を実現できる。
- 大量の取引処理と複雑な計算: メインフレームは大量の取引と複雑な計算に対応できるよう設計されている。こうした処理能力は、ディープラーニングモデルのトレーニングや複雑なアルゴリズムの実行といった集中的計算が求められるAIの作業負荷を支える上で不可欠である。企業はメインフレームの処理能力を生かしてAIのトレーニングと推論を加速させ、短時間でインサイトを得ることができる。
- 強固なセキュリティおよびコンプライアンス機能: メインフレームの強固なセキュリティおよびコンプライアンスという特性は長年にわたり高く評価されてきた。これは、AIアプリケーションの機密データを扱う上で極めて重要である。企業はメインフレームをAI向けに再利用することで、既に組み入れられているセキュリティ対策を活用し、データのプライバシー、法令順守、サイバー攻撃の防御を確実に行うことができる。最新のIBM z16 システムには、次世代テクノロジーから現行システムと顧客データの安全を保護できるように設計された耐量子暗号が使われる見通しである。
データのある場所にAIを導入することは、より効率的なアプローチである。既存のメインフレームをAIプロジェクトに再利用することは、コスト効率の良い戦略となり得る。企業が自社のメインフレームを別の用途に使い、既存のハードウェアとソフトウェアのリソースを活用すれば、新たなインフラへの大規模投資をしなくても済む。
最新のIBM Telumプロセッサーは、ディープラーニングによる推論を使ってリアルタイムで大規模な不正検知を行うなど新たなユースケースに対応できるよう設計されている。IBMのプロセッサーとして初めて、トランザクションの実行中にAIのネットワークトレーニングを行えるオンチップ・アクセラレータを搭載している。ウォールストリートジャーナルの掲載記事(表題は「Mainframes Find New Life in AI Era2」)によると、IBMは同社の次期メインフレームシステムである「IBM Zシリーズ」に従来のAI機能と大規模言語モデル(LLM)を組み入れる計画である。これは、メインフレーム上でAIアプリケーションを動作することでメインフレームの再生を図ることを目指している。
「AI in a box」というコンセプトが急速に広がっており、特に中国のような国々ではその勢いが増している。このアプローチは、データのプライバシーを重視し、パブリッククラウド上でのデータ保存や公表データへの依存に慎重な姿勢を示している政府や企業に支持されている。自己完結型システムにAI機能を組み入れるかたちで「AI in a box」を実現すれば、こうした懸念を十分解消できる魅力的なソリューションになるだろう。
企業がITインフラの更新に取り組むなか、メインフレームシステムは引き続き重要な役割を担っている。インフラ全体の現代化戦略を策定するにあたり、有効な選択肢となり得るだろう。
参考資料
1. https://www.ibm.com/history/eserver-zseries
2. https://www.wsj.com/articles/mainframes-find-new-life-in-ai-era-1e32b951?mod=hp_minor_pos5
タイル画像提供:生成AI