英国における年金追跡システム (PTS) の取り組み:金融サービス組織にとっての機会?
欧州の複数の国々(ベルギー、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、オランダなど)では、Pension Tracking Systems(PTS)と呼ばれる年金ダッシュボードが導入されている。一般市民はこのシステムを通じて自身が様々な方法で蓄えてきた老後資金を一元的に把握できるようになり、一部は既に10年以上にわたり運用されている。
英国の年金ダッシュボード開発プロジェクトは何度か延期されてきた。同プロジェクトは、個人が公的・私的なものを含む自身の年金を一元的に閲覧できるようにすることを目指している。ユーザーはダッシュボードから安全かつ容易な方法で自身の年金データにアクセスし、十分な情報に基づいて自身の退職プランを立てることができる。
年金制度の受託者、運用会社またはプロバイダーが年金ダッシュボードのエコシステムに接続する場合、次の2つの選択肢がある。
- 独自の方法で直接接続し、自社開発システムを利用
- 総合サービスプロバイダー(ISP)または外部のアドミニストレーターの有料サービスを通じて接続
ISPは中心的なハブとして、年金業界の様々なステークホルダーやシステムをつなぐ役割を担い、年金プロバイダー、雇用者、個人の間のデータと情報のシームレスなやり取りを容易にしている。そして、年金データが安全かつ正確に発信され、ダッシュボードを通じて個人が自身の年金データに一元的にアクセスできるようにしている。またISPはデータの検証、クレンジング、エンリッチメントなどの重要なサービスも提供し、正確で信頼性の高いデータがダッシュボードに表示されるようにしている。信頼される仲介役としての役割を果たすことで年金業界の透明性、効率性およびアクセス性を高め、個人が十分な情報に基づいて退職後の資金計画を決定できるようにしている。現在市場に参入しているIPSはIntellica、Equisoft/itm、Civica、Bravura、 Dunston Thomas、Heywood、Origoなど多数に上る。
金融機関のビジネス機会:
年金ダッシュボード・プログラムは金融機関に複数のビジネス機会をもたらし、中でも商用年金ダッシュボードの開発は有望な機会となろう。主に以下のような事例が挙げられる。
- 商用ダッシュボードの構築:政府が先頭に立って公的年金ダッシュボードの構築を進めているが、商用ダッシュボードにも開発余地がある。年金ダッシュボードからアクセス可能な豊富なデータは、金融機関にとって宝の山となり得る。金融機関はそれらのデータを分析することで、顧客の行動や志向に関する知見を得て、よりパーソナライズ化/ターゲティングされた金融商品・サービスを提供できるようになる。
- 信頼と顧客ロイヤルティの確保:年金ダッシュボードの導入により人々の年金への関与が強まることが期待され、金融機関は価値のある情報やアドバイスの提供を通じて効果的な顧客エンゲージメントを行えるようになる。金融機関にとって、年金ダッシュボードの活用は信頼構築と顧客関係強化の機会となる。安全でユーザーフレンドリーなダッシュボードを提供することで、顧客エクスペリエンス全般の拡充と既存顧客のロイヤルティ促進につなげることができる。
- 退職プランのパーソナライズ化:商用年金ダッシュボードは、個人の退職プランをサポートする追加機能・ツールを提供できる。具体的には、退職後の所得計算、投資アドバイス、年金口座統合の選択肢などである。
- 付加価値サービス:金融機関は年金ダッシュボードを通じて付加価値サービスを提供できる。例えば、金融教育リソースへのアクセス、退職プランニングのセミナー、個人の状況に応じたオーダーメイドの提案などが考えられる。
- 提携機会:年金ダッシュボード・プログラムは年金プロバイダー、フィンテック企業やその他の金融機関の間の協力を促している。金融機関は自社の専門ノウハウとリソースを活用しつつ、ステークホルダーとパートナーを組むことで革新的なソリューションの開発や市場範囲の拡大を実現できる。
要約すると、このプロジェクトによって個人の年金との関わり方が大きく変わる一方、金融機関には英国における将来の退職プランニングを方向づけるような革新的で顧客中心のソリューション開発を主導する機会をもたらす可能性がある。