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米国預託証券の市場トレンドと規制の役割

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2011/11/28

Abstract


米国の投資家による外国株への投資額はここ数年10%を超えるペースで拡大し、2010年には3兆9,000億ドルに達しています。これは、保有株式残高全体の19%に相当します。海外投資が加速した背景には、高いリターンや分散投資志向があるとみられます。米国預託証券(ADR)には他の金融商品とは異なる点があり、国内株式に比べて投資リターンが高くなる傾向があることから、投資家の間で人気が高まっています。


ここ20年間で、海外市場への投資が注目を集めるようになりました。米投資家が外国企業への投資を行う理由として、主にリターン向上と分散投資の2つが挙げられます。また、海外投資の手段としてADRを選ぶ理由はいくつか考えられます。まず、米国の取引所に上場している外国企業がさほど多くないことです。また、海外のミューチュアル・ファンドやETCは幅広い国やセクターの銘柄を組み入れているのに対し、ADRは個別企業への投資が可能です。ミューチュアル・ファンドやETFは管理手数料もかかります。

海外に直接投資を行う場合、情報フロー、規制面のハードル、カントリーリスク、時差など様々な問題が発生しますが、ADRに投資することで、これらの問題の多くは解決されます。外国株への投資は一般的にハイリスク・ハイリターンであると想定され、特にADRについてはその傾向が強いといえます。2003~09年のADR指標のリスク調整後リターンをみると、08年を除いていずれもS&P 500を上回っています。さらに、同期間中にあらゆる地域のADRはほぼ毎年 S&P 500をアウトパフォームしており、中でも新興市場のADRは大幅なアウトパフォームを記録しています。ADR市場を支配しているのは機関投資家ですが(保有残高全体の72%を占める)、これは機関投資家が外国銘柄の売買に必要な全ての情報へのアクセス、取得、処理において有利な立場にあるからでしょう。

現在投資可能なADRプログラムは2,200を超え、そのうち約48%はスポンサーなしADRで、残りはスポンサー付きのものです。証券取引委員会(SEC)による2008年の規制改正に伴い、預託銀行は発行企業の同意を得ずにスポンサーなしのプログラムを発行できるようになり、ADR市場に大きな変化が生まれました。改正直後には、新規のスポンサーなしADRが大量に発行されました。その多くは、規制改正を受けて外国企業の意図とは無関係にクロスリストされたものです。その結果、多くの企業はウェブサイト上に、自社株を対象とするスポンサーなしADRについて一切の責任を負わないという免責条項を掲載しています。こうした状況は、投資家に懸念を抱かせかねません。そこで一部の企業は、自社のスポンサーなしADRプログラムを「スポンサー付きレベル1ADRプログラム」に変更し、自社株の管理を強化しています。


出典:セレント、預託銀行

こうした状況から、今後投資家が新たなADRプログラムを選ぶ際は、より慎重かつ厳しいスタンスで臨む可能性が高くなります。中長期的にみると、スポンサーなしADRの新規発行は徐々に減少するものとみられます。これは2008年の規制改正後、投資家の関心が集まる企業のスポンサーなしADRの発行が一巡したことによるものです。この結果、スポンサーなしADRの市場は飽和状態になっています。また、スポンサーなしADRの対象となっている企業は、スポンサー付きADRへの変更によって自社株の管理強化を図るようになるでしょう。
これとは別に、スポンサーなしADRの上場やレベルの異なるADRプログラムのクロスアロケーションといった動きも予想されます。「これに伴い、スポンサーなしプログラムの新規発行は減少し、ADRプログラムの上場廃止と再配分が活発化するでしょう。これは市場の『成熟化』を示唆しています。今後の市場の発展を主導するのは本格的な市場参加者、発行者および投資家に限られ、市場の集中度が高い状況は続くとみられるからです。投資家の間では海外ETFの人気が急速に高まっており、これがADR市場の成長阻害要因となる可能性があります。従って、この市場の発展に向けては革新的な商品の投入がカギとなるでしょう」と、セレントのアナリストで最新レポートを執筆したアリン・レイは述べています。

セレントの最新レポート「米国預託証券の市場トレンドと規制の役割」はADR市場に注目しています。レポートでは、米投資家による外国投資のトレンドを分析し、様々な外国投資の手法の進化を比較しています。また、ADR市場について調査し、ADR投資のメリットを挙げるほか、ADRを通じた取引や資金調達について説明しています。さらに発行体、投資家、預託銀行などの市場参加者が直面する主な課題や、規制上の問題も取り上げています。最後に、既存のADR市場に対するセレントの見解と今後の発展見通しを示しています。