IT投資動向:世界金融業界の概要
Abstract
(このレポートは2006年11月13日に"T Spending Trends: A Global Financial Services Review"というタイトルで英文で発表されましたが、和訳版を2007年4月13日に発行しました。)
セレントは、地域や業界を越えた世界の金融機関のIT投資トレンドを総括しました。
セレントの最新レポート「IT投資動向:世界金融業界の概要」は、様々な業界(銀行、保険、証券)や中南米やアフリカにおけるIT投資概要を含めて地域(北米、欧州、アジア太平洋地域)のIT投資トレンドを分析しています。本レポートは、金融機関によるIT投資の方向性を特定し、理解するための比較・対照を行うことに焦点を当てています。
セレントの推計によると、世界の金融機関によるIT投資額は現在3,177億米ドルとみられ、2005年を8%上回る水準となっています。しかし、米国経済の見通しが比較的明るいにもかかわらず、金融機関によるIT投資額の伸び率は2007年以降鈍化するとみられます。世界の金融機関が2008年にIT商品・サービスに投入する資金は計3,512億米ドルと予測されており、投資額の伸び率は年率5.1%になると予測されています。
アジア太平洋地域の金融機関は世界の他の地域の金融機関を大幅に上回るスピードでIT投資を拡大すると予測されており、2006年から2008年にかけてのIT投資の伸び率は年率11.4%に達するとみられます。
「世界的に、金融機関は柔軟性および信頼性の高いITインフラに大きく依存している傾向にあります。変化の激し金融業界では、業務効率の向上と持続を追求することが不可欠です。『新規プロジェクト投資』に関する調査結果からも分かるように、世界中の金融機関は古いシステムをリプレースし、ITシステムの保守・運用費の削減を図ることに強い意欲を示しています」と語るのは、セレント証券プラクティスのアナリストでレポート執筆者の一人であるルイーズ・ウェスターリンドです。
ここ数年、世界中の金融機関は多額のIT投資を行ってきました。ここにきて投資回収局面を迎えており、システム保守・運用費の伸び率もある程度安定する見通しです。一方で、新規投資の伸び率が大幅に低下する可能性は低いでしょう。
金融機関は未だに新規投資よりも保守・管理に多くの投資を行っており、全体のIT投資のうち74.5%は保守・運用費が占めます。しかしながら、各金融機関は既存のITシステム構成の見直しを進めており、2007年から2008年には新規プロジェクト投資の比重が高まるでしょう。金融機関による新規プロジェクト投資の増加率はアジア太平洋地域で最も高く、その伸び率は年率13.0%に達する見込みです。新規プロジェクトへの投資拡大が加速する一因として、少なくともシステムのアップグレードが必要となっていることが挙げられます。
金融機関ではあたりまえのように、相当時代遅れで処理スピードが遅く、しかも柔軟性に欠けるシステムを現在も使用していますが、このようなシステム環境は業務効率の最適化や新規商品開発の実現の阻害要因です。導入後30年近くも経過したテクノロジーに依存するこういった金融機関の多くは、システムの刷新が競争力の向上につながることを、少しづつではありますが確実に、認識し始めていると言ってよいでしょう。
本レポートは43図と6表を含む全60ページで構成されています。