MiFID:その真髄と欧州市場における展望
Abstract
フランクフルト・ゲーテ大学e-Finance委員会とセレントの共同調査レポート
本レポートは金融商品市場指令(MiFID)の目的と精神を明らかにし、欧州株式市場の現状や改革状況と比較し、特に様々なタイプの取引所が果たす役割に焦点を当てています。レポートは、証券業界の現状と規制についての議論を発展させる内容であり、将来導入される可能性のある規制に関する提言も行っています。
MiFIDの主旨は、金融商品をその取引方法にかかわらず包括的に管理する体制を確立し、市場の効率性、整合性、公平性の向上や様々な決済機関および取引所間の競争を促すというものです。MiFIDの施行から3年が経ち、欧州では規制市場(Regulated Markets)と新興のMTFの間の競争が実際に投資家にメリットをもたらしており、テクノロジーや取引モデルの革新、サービスをめぐる競争、手数料の大幅な低下、市場の質の向上(スプレッドの縮小、受注の拡大など)などの面で期待通りの成果が出ています。
投資家が取引できる場所は規制市場(Regulated Markets)のほかMTFやダークプールなどにも広がっていますが、欧州の現物株式市場で執行される全取引の大部分は、依然として店頭取引が占めています。しかし、MiFIDの備考53では、店頭取引を、一時的で不規則なニーズに追加的に対応するための取引、すなわち、法人カウンターパーティによる、規模が大きく、システム化したインターナライゼーションに使用されるシステム以外で執行される取引と位置づけています。ところが今回の調査で個々の店頭取引を分析した結果、現在行われている取引の大部分は標準的な取引より規模が小さいことがわかりました。フランクフルト・ゲーテ大学のe-Finance委員会会長で、本レポートを執筆したピーター・ゴンバーは次のように述べています。「市場関係者の多くが言うように、店頭取引を行う主な理由がマーケットインパクトを最小化することにあるが、発行市場で取引される場合、多くの店頭取引はインパクトを受けるはずです。しかし、我々が分析したところ、大部分の店頭取引は規模が小さく、市場のインパクトも受けていないことが明らかになりました。一般に、店頭取引と発行市場の取引の構造的な違いは過大評価されています」2009年に行われた店頭取引のうち、流動性の高い銘柄を対象とする取引の50%、流動性の低い銘柄の60%はMiFIDの基準よりも規模が小さかったことがわかりました。流動性の高い銘柄の店頭取引のうち、市場のインパクトを受けていない取引の割合は2008年の68%から2010年は80%に、流動性の低い銘柄では58%から66%にそれぞれ拡大しています。
MiFIDの施行を機に取引所間の競争が始まり、取引の場の細分化が進んだ結果、注文管理システムのほか、アルゴリズムやスマートオーダールーティングシステムといった様々な取引システムの導入が加速しました。こうしたシステムは、欧州の現物株式市場における取引執行方法を一変させています。セレントのシニアバイスプレジデントでレポートを共同執筆したアクセル・ピエロンは、「取引規模の縮小に加え、このようなコンピュータによる取引を行うには取引前および取引後の市場データが不可欠となるため、市場参加者にとってこうしたデータの重要性はさらに増したといえるでしょう」と述べています。
情報漏洩への懸念を背景に、ダークプール、クロッシング・ネットワーク、店頭取引など表に出ない「市場」を通じた注文執行も増えています。ピエロンは、「ブローカーやディーラーはこれまで電話で行うことの多かった店頭取引を電子化するため、照会システムの開発を進めています。これによって注文の誤処理が発生する確率が低下し、取引後の処理および報告業務の改善にもつながることから、業界全体にとっても明らかなプラスとなります。ブローカー/ディーラーのクロッシング・ネットワークの注文執行モデルはユニークなものではなく、実際にはMiFIDで定められている3種類の取引所全てに対応可能とみられます」と述べています。
またレポートでは、店頭取引の売買件数が欧州の株式市場の構造に及ぼす影響を分析し、今の取引レベルが欧州現物市場の注文主導型モデルに深刻な脅威をもたらすかどうかを検証しています。ブローカー/ディーラーが、規制対象の取引所(規制市場、MTF、SIなど)からのシェア奪取の加速につながるクロッシング・ネットワークを開発するなど、状況は厳しさを増しています。「店頭取引では価格交渉が行われるため、価格提示を行う市場の価格発見機能は深刻な影響を受ける可能性があり、最終的に株式市場は呼び値主導型市場になりかねません」とゴンバーは指摘しています。
このレポートは31図と6表を含む102ページで構成されています。