世界のCO2排出権取引市場:主要商品市場に向けて始動
Abstract
ここにきてCO2排出権の取引量は73%、取引 金額は88%を超える伸び率を記録しており、その市場は驚異的に成長しています。短期的には緩やかな成長となる見通しですが、長期的には力強い成長が見込 まれるでしょう。楽観的なシナリオとしては、2020年に世界のCO2排出権取引市場の規模は2兆億ドルに達し、商品市場の中でも最大規模になると考えら れます。
2007年の世界のCO2排出権取引額は約650億ドルで、今年は1,150億ドルに達するとみられます。セレントの最新レポート「世界のCO2排出権取引市場:主要商品市場に向けて始動」 は同市場の概要を包括的に紹介するもので、市場のトレンドや進展状況とそれが将来の成長に及ぼす影響について分析しています。今後の成長の行方は、特に 2012年以降に取り決められる規制の枠組みに左右されるとみられます。これには、規制対象が新たな業界や地域に拡大するかどうかも関わってきます。 CO2排出権取引市場の将来は景気動向と密接に結びついており、昨今の景気後退を受けて成長見通しは不透明になりつつあるといえるでしょう。
現在、多くの制度が導入過程にあるか導入が検討中である現状は、地球温暖化に対する各国政府の考え方が明らかに変化したことを示唆しています。とはいえ、産業基盤の違いにより地域ごとに採用しているCO2削減スキームは異なっています。
「CO2削減に対する効率的かつ柔軟なアプローチを確立するにあたり、こうした違いは避けられません。しかし、世界的なCO2排出権市場を構築するために はこの点がネックとなるでしょう。排出権プロジェクトが世界レベルで展開するまでには、いくつかの構造的変化を経る必要があるとみられます。その間は、排 出権の裁定取引においてクリーン開発メカニズム(CDM)の果たす役割が一段と重視されるでしょう」とセレントのシニアバイスプレジデントでレポートを執 筆したアクセル・ピエロンは述べています。
排出権市場はコンプライアンス主導の市場から投資主導 の市場へと移行し、金融商品としての排出権取引の開発も進んでいます。排出権取引の専門ノウハウを持つ多くの企業が進出し、大手金融機関も排出権取引のト レーディングデスクを開設しました。こうした金融機関は、従来はなかった高性能な商品構造を持ち込んでいます。排出権のデリバティブ市場では先物、オプ ション、スワップといった取引が行われています。
「排出権市場が金融市場化されることで、利益の安定化が可能となるでしょう。個人投資家向けに特化した商品を開発したことで、市場は一歩前進しました。こ うした進化が市場の流動性と効率性の向上に寄与するでしょう」と述べるのはセレントのアナリストでレポートの共同執筆者であるランジト・ベヘラです。
本レポートは世界各地で導入されているCO2削減スキームの概要を紹介し、それらが排出権取引市場の成長に及ぼす影響を分析しています。さらに、様々な排 出権取引市場(EU、ETS、CDM&JIなど)についても分析しています。最後に、①排出権の価格形成要因②排出権取引商品と経済指標の相関性 ③排出権取引市場の代替取引市場―などをもとに同市場の投資機会を検証しています。