店頭デリバティブの清算:規制の動向と政策当局への提言
2012/06/08
Report Previously Published by Oliver Wyman
Abstract
オリバーワイマン既刊レポート
2009年にG20は、標準化された店頭デリバティブ取引(OTC)の清算・決済を2012年までに現在の相対方式から中央清算機関の仕組みへと移行する方針を明らかにしました。これを機に米国、EUをはじめとする様々な地域で新規制を定める動きが広がり、銀行、清算機関、カストディアン、データプロバイダーなどが大規模な投資を行っています。しかし、ここ数年、G20が掲げた目標の大きさや複雑さといった課題が浮上してきました。 エンドユーザーである顧客は多種・多様であるため、清算機関や顧客の決済銀行にとっては難題となっています。規制の枠組みも地域によって違いがみられます。中央清算機関そのものの構造と資本基盤も論争の的となっており、中央清算への大規模な移行がもたらす業務およびシステム上のリスクをめぐる懸念も生じています。
2012から13年にかけては、今後の動向を左右する重要な時期になると思われます。ドッド・フランク法、支払・決済システム委員会および証券監督国際機構(CPSS-IOSCO)、バーゼルⅢ、欧州市場インフラ規制(EMIR)といった多くの重要な規制の詳細と施行時期が明らかになるからです。こうした規制とそれらへの対応次第で、中央清算・決済への移行が誰もが納得できる有効な短期目標であり続けるかどうかが決まるでしょう。
政策当局が規制の細部をどう策定するかが重要なカギを握るとみられますが、その選択肢は複雑なものとなっています。政策当局へオリバー・ワイマンが提言するのは、主に以下の4つの点です。
- 安全性と簡潔性を第一原則とすべき: こうした作業を進める際には、意図しない結果を招くリスクは非常に高くなるものです。段階的なスケジュールを組み、変更は慎重に行うべきでしょう。分野によっては規制を簡素化した方が得策でしょう。例えば、当初の適用対象商品の範囲や取引所と同様のマーケットメーキングおよび価格発見などがこれに当たりますが、これらは清算・決済関連の規制に包括されることが多い分野です。
- OTCデリバティブの中央清算を促すための十分なインセンティブを与えるべき: OTCデリバティブ取引の大部分の決済を中央清算機関にスムースに移管するためには、市場参加者に規制を適用するだけでなく、現実的な経済的インセンティブを与えることが必要です。しかし現在、こうしたインセンティブが不十分であるか、全く提供されない可能性が出てきており、その結果市場の流動性が低下したり、取引が標準化の対象とされなかった商品や地域に流れてしまう恐れがあります。特に、バーゼルⅢの導入案に中央清算機関へのエクスポージャーに対する資本要件や顧客の決済銀行に対する資本規制が盛り込まれたことは注目に値します。こうした案はシステムの資本強化を目的とするものですが、その適用対象と仕組みが適切でないため、「安全性」と「十分なインセンティブ」のバランスが不均衡であると考えられます。
- 欧州と米国で規制の統一を図り、G20の小規模な市場については目標を修正すべき: 金融安定理事会(FSB)はG20の規制統一を目指しているものの、それには3つの問題があります。第1に、EMIRとドッド・フランク法にはなお矛盾点があり、それらを解決する必要があります。第2に、欧州と米国でバーゼルⅢの施行時期がいまだ統一されていないことです。第3に、EUと米国を除く他のG20メンバー国の多くが中央清算・決済の義務化の導入方法をまだ決めていないことで(規模の小さい市場では中央清算・決済を導入するメリットが不透明)、G20およびFSBはこの点についてより現実的な目標を定めることが求められます。
- 清算機関のリスク管理要件を厳格化すべき: CPSSIOSCOが定めた清算集中化の要件は出発点としては有効であるものの、清算機関の安全性を確保するためには追加的な要件が必要と考えられます。現行の規定では重要分野における「最低限」の要件しか設けていないため、証拠金・担保・デフォルト損失などの政策をめぐって底辺の競争を招く可能性があります。特に主な中央清算機関(CCP)は(事実上あるいは法律上)「大きすぎてつぶせない」状況にあるだけに、こうした分野ではより厳格な世界共通のガイドラインを策定する必要があると思われます。